●パーティで踊って食べて、むぎゅーっと♪
「誘いを受けてくれてありがとう♪ 一緒に出てくれるって言ってくれて嬉しかったよ♪」
「……」
余所行きの燕尾服に身を包んだ薫が、お相手のいおに微笑む。
美しい花の刺繍が入ったワインレッドのドレスのいおは、ずっと無表情。大きなリボンとコサージュが踊りに合わせて可愛らしく揺れるが、それでもやっぱり無表情。
「それじゃ踊ろうか、いおっち♪」
「……」
いおはじっと、薫を見つめて、こくっと頷いた。
音楽が流れる。周りはコスプレしたカップル達が踊っている。
その中で、二人は楽しそうに踊っていた。
「いろんな人がいて、面白いね」
辺りを見渡しながら、薫はにこにこと微笑む。
「……」
いおは、楽しいと緊張とで半々になりながらも、やっぱり無表情であった。
「……薫さん」
と、そのとき、いおが初めてしゃべった。
「なになに?」
嬉しそうに薫は、いおの言葉に耳を傾ける。
「……」
いおは、黙って下を見つめた。
「あっ……ご、ごめんっ!」
靴は踏んでいなかったが、ドレスの裾を踏んでしまった様子。
すぐさま、ドレスを踏んだ足を避ける。
「だ、大丈夫だった?」
その言葉にこくっと頷くいお。どうやらいおは怒っていないようだ。
ふと、いおの手首に何かがあるのに気づいた。
それは、薫が誕生日に贈ったミサンガだ。
薫は嬉しそうに微笑んで、また曲に合わせて踊りだした。
体を動かしていると、お腹も減ってくる。それはダンスも同じ。ましてや、それほど慣れていない二人にとっては、結構な運動量になっているらしく。
「ちょっと休憩して、何か食べようか?」
「………」
薫の提案にいおは、こくっと頷いた。
さっそく薫は美味しそうなショートケーキを見つけて、いおのところに持ってくる。
「はい、いおっち♪ あーんして」
しばしの間を置いて。
「………」
薫の差し出したケーキをぱくっと食べた。
今度は薫をじっと見つめる。
「あ、次だね」
薫は次のケーキを切り、フォークで刺して、いおに差し出すのであった。
食事も終えて、またダンスを始める。
二度目の休憩を迎えた。
可愛らしいいお。その後姿を見つめていた薫は……。
「いおっち♪ 可愛いよっ!」
後ろからぎゅっと抱きしめる。
いおは、薫の回した腕に手を添えて、そっと頬を赤く染めた。
賑やかなパーティーの中。
楽しく過ごす二人のクリスマスは、こうして、幕を下ろしたのである。
| |