●「お星様はどうですか?」「…なら、一等星の数だけ」
「冷たいな」
頭上の星は今にも降ってきそうで、星々の輝きは美しいのに章の口から漏れたのは温もりを失った自身の手を再確認させる様な呟きだった。息は白く曇り、外気が冷たいのはわかりきっている。
「こんなに冷たい……」
そうではなく、暖めてくれる人が傍にいない心の冷たさを口にしているのかも知れなかった。
「ああ、やっぱりあんなところに、いた」
背をコンクリートの壁に預け、呟きながら星を眺めていた章は自分以外の声を耳にして振り返る。
「あれ。日輝?」
そこには戸から半身を覗かせた日輝の姿が。
「皆が心配しますよ、槙野さん」
「ああ、ごめんな、もうちょっとしたら皆のところに戻るから」
日輝に軽く頭を下げ再び星空を見上げた章は、日輝が苦笑気味の表情を浮かべた事など気づいていないだろう。 「そんな風に人を愛せる貴方を羨ましい」と言葉にせず思っていた事も。
「槙野さん」
「もう少しだけ、ここに……っと、何だ? 金平糖?」
もう一度呼ばれ、ガラガラと言う音で日輝の手に目がいけば、硝子瓶の中で閉じこめられた星達が踊っていた。
「星はいかがですか?」
「うわわわ、っと……なんだよ、急に」
蓋を開けられた瓶から降る星を抗議しながらも章は受け止める。
「甘いもの、好きでしょう?」
「ああ」
抗議の言葉へ悪戯っぽい笑みを返す日輝の言葉に章は頷きを返した。頷きを返して手の中の金平糖を一つ口の中に放り込む。
「甘いな」
「星はいかがですか?」
言葉にはせず、章の言葉を首の動きだけで肯定して日輝は再び同じ台詞を口にする。
「わ、まだくれるのか?」
慌てて手を差し出す章の仕草が面白かったのか、少し笑って日輝はやはり同じ言葉を繰り返した。
「星はいかがですか?」
「それなら、一等星の数だけ」
二人の頭上では未だ降らない星々が瞬き、空を飾っていた。
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