槙野・章 & 百瀬・千乃

●47cmの距離

 イルミネーションが灯る並木道を歩く二人。
 千乃の頭にはゆらゆらと、赤いレースのリボンが揺れていた。
「あ、そのリボン……俺が去年、クリスマスにプレゼントしたやつだよな?」
 章はそう千乃に尋ねた。千乃は背の高い章の顔を見上げるように微笑む。
「大当たりっ! 気づいてくれなかったら、どうしようかと思っちゃったよ」
 その答えに章は思わず笑みを浮かべる。
「よく似合ってる」
「ホント? 章先輩にそういわれると嬉しいな」
 きらきらと輝く瞳を細めて、千乃はまた笑顔を見せた。

(「……うう、なんて可愛いんだ! 千乃のらぶりーさは、銀誓館の財産だ!」)
 章は口に出すのをためらったのか、心の中で精一杯叫んでいる。
 ちなみに、章は180センチ程度、千乃は130センチ程度と、約40センチ以上の開きがある。
 なおのこと、章にとって千乃は、小さくて可愛い存在に映るのかもしれない。

 一方、千乃は。
(「幸せだなぁ〜。クリスマスにキラキラの世界を、大好きな先輩と一緒に歩いてる。うん、とっても幸せ…………でも!」)
 幸せなのだが、一つ問題があった。
 90度に反り返りそうな、その千乃の首が、ちょっぴり苦しい。いや、だいぶ。
(「見上げるのをお休みできればいいのだけど、せっかくの楽しい会話なのに、顔を見れないなんて悲しすぎるし。きっと、きっと大丈……」)
 そう思った瞬間。
 ぐきっ!!
「はうぅっ!?!?」
 千乃の首から変な音が聞こえた。

「!!!」
 驚いたのは千乃だけではない。目の前にいた章もその豪快な音にびっくりしている。
 というか、死ぬほど慌てて、章が思いついた行動は。
 ひょいっと、千乃を抱き上げることであった。

「わぁ!? あ、章先輩の優しい目がこんなに近いよう……」
「ん、こうすると、いつもよりずっと近いな」
 縮まった距離に二人は笑みを浮かべた。

 章は思う。
(「明るく強い、冬の花のような君の笑顔。千乃が横で笑っていてくれるから、今がこんなに幸せなんだな」)
 淡く微笑んで。
 千乃も思う。
(「さっきよりも、もっとずっと幸せ。ありがとう。大好きだよう、章先輩」)
 ほわっと頬を染めて、嬉しそうに微笑んで。

「……しかし可愛い」
「ん、章先輩?」
「あ、いやなんでもない」
 二人の夜は、まだこれから……。




イラストレーター名:華谷百花