●2つの想い
クリスマスで賑わう夜の街。
遥夜と一花は、一緒に歩いていた。
ふと、一花は隣にいる遥夜を見る。
遥夜を好きだけど、友達としての今の関係を壊したくない想いばかりが募ってくる。
その一花の視線に気づいているのかいないのか、ずっと前を見て歩いていく。
好意を持ち、内心自分の気持ちには気付いてるが、恋愛を理解して無い遥夜。
二人の想いが交わるのはいつの日のことやら……。
今日だって本当は言おうと思っていた。
けれど、この楽しさを壊せない。
そんな勇気が無い。
今の……この幸せは離したくないから……。
(「私は一緒に居れるだけで嬉しいんですのッ」)
そう、自分に言い聞かせるように、一花は頭の中で打ち消した。
「さっきから百面相してんな? どうしたよ?」
「な……何でも無いですわッ。ただその、一緒に居て差し上げてもよろしく……じゃなくて、その一緒に……いっいいい……」
これ以上言葉が出ない一花。それを不思議そうに首を傾げてみているのは、遥夜。
そのとき、それは起きた。
「あうっ?!」
周りの人ごみが一花を巻き込んでいったのだ。
離れる距離が切なくて、思わず伸ばした一花の手は。
「っと……」
ぐっと、力強いその遥夜の腕が掴んで引き寄せられた。そして、そのまま人ごみから離れるように移動していく。
「ったく、人が多くて叶わねぇな……」
一花を抱き寄せたまま、呟く遥夜に。
(「えっ…ええええッ?!」)
一花、もとい一花の心臓は動揺を隠せない。暖かさは心地良い、けど心臓の音が騒がしく響く。
「どうしたよ?」
そう覗き込む遥夜に、一花は一瞬、言葉を失うが。
「あ……貴方のせいですわッ」
「?」
一花の様子に、遥夜は何となくではあるが、言いたい事を感じ取った。
けれど、一花に対するこの感情が、一体何なのか……遥夜には、まだわからない。
それでも、止まったままの二人の気持ちは、また動き出す。
このきっかけと共に、少しずつ、少しずつ……。
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