月詠・アリス & 紗片・ハルミ

●朝日の空

 雲の合間から星が瞬いていた。
「やっぱり冷えるわね」
 ハルミがほうっと吐き出す息は口より出る以前から白かったと思わせるように曇って時折吹き込む風に流されたなびいて行く。
「……冷え……ますね」
 小さく頷きボソボソと呟くアリスの息もまた白い。時折雪のちらついたイブの夜、二人は学園のテラスにあるベンチに腰掛けていた。屋外である以上、刺すような風が吹き付けるのは避けられなかった。二人が座るまでこの風にただ耐えていたベンチは、最初に触れた時、氷のように冷たかった。
「ベンチはだいぶ暖まってきたかしら?」
 ただ、二人が座って幾分か経ったからだろう。座っている部分だけではあったが体温が移った部分は少し温かくなっている。手袋をしていないハルミの手が触れると冷え始めた手よりも微かに温かくなっていた。
「手がだいぶ冷えてきちゃったわ」
 口にするなり身体をくるんだ毛布に手を入れる。全身をくるむことのできる毛布は、刺すような外気から二人を護ってくれる唯一の味方だ。

 12月25日クリスマス。その朝日が昇る瞬間を一緒に見る為だけに二人は居た。白く曇った息が時間と共に流れて、見上げた星空の星々もゆっくりと動いて行く。
「……星空」
「綺麗ね」
 冬の澄んだ空気の下で見る星空は格別だった。目的のものでは無いのだけれど。
「ふあ〜、さすがに眠くなってきちゃった」
 既に日も変わり更に時は過ぎて、ハルミは思わず欠伸をすると瞬く目元へと手をあてる。眠っていないことがこたえ始めたのかもしれない。
「寒っ」
 襲い来る眠気を撃退したのは吹き込んできた冷たい風。
「……少し……ぎゅっと……してもいいですよ……」
「え?」
 身体を強張らせたハルミはふとかけられたアリスの言葉に面を喰らうが、それも一瞬。
「うん」
 すぐに表情を微笑に変えてアリスの肩へと手を回す。一人より二人、一緒の方が暖かい。

 時計の長針はそれから何周かして、お互いの温もりを感じながら寄り添う二人の蒼が向いていた先、東の空はいつの間にか白みを帯びていた。

 やがて白くなった空は鮮やかなオレンジに染まって、待ちわびていたはずの朝日はゆっくりと顔を出し始める。差し込む光はオレンジ色の帯となってベンチのもとへと伸び、寝入ってしまった二人を優しく照らす。
 鉄製の支柱が陽光に輝き、夜露もまた輝く。差し込む陽光自体とのコラボレーションが二人を包んでいた。




イラストレーター名:乱翠