狗守・暁弥 & 緋召塚・飛鳥

●〜 CHANGE OF SCENERY 〜

 クリスマスの夜、普段なら無人になっているはずの喫茶店に、今夜はまだ明かりが灯っていた。
 店内には、並ぶ2人の人影。そう、暁弥と飛鳥だった。

「こ、これは」
 暁弥がカウンターに置いたのは、小さなショートケーキと一杯のコーヒー。
「た、食べてもよいのか?」
「日頃頑張っているようだからな。少しは、労わってやるのも悪くない」
 心なしか瞳を輝かせて見上げる飛鳥に、そう言い放つ暁弥。彼女の反応に、相変わらず甘いものが好きな奴だと、つい苦笑が浮かぶ。
「で、では、遠慮なくいただ……」
「……ただし」
 早速フォークに手を伸ばそうとする飛鳥。
 だが、そこに暁弥の一言が割り込む。
「……な、なんだ?」
 何か条件があるようだ。
 一体なんだろうかと、そう恐る恐る尋ねる飛鳥。そんな彼女の額に、暁弥はつんと指先を当てた。
「その口調をどうにかしろ」
「む……しょ、承知し……あ、いや」
 暁弥の一言に、飛鳥はこくんと頷こうとして、すぐハッとした様子でふるふると首を振る。
「……う、うん。……これで良いの?」
「あぁ」
 言い直す飛鳥の様子に小さく頷いて、暁弥は少し乱暴な動作で、その頭を撫でつける。
 その感触が、なんだかちょっと心地よくて、飛鳥はそっと目を細めた。

 夜遅い喫茶店は、とても静かで。飛鳥がカップを持ち上げると、かちゃっとソーサーと触れ合う音が、妙に大きく響き渡る。
 一口、そっと口付けて、暖かいコーヒーを味わう。
 独特な香りが、ふんわりと周囲を覆うように広がる中、そっと飛鳥は暁弥に寄り添った。
 そのまま、そっと腕を絡める。
「……どうかしたのか?」
「え、ぁ、その……あ、ありが、とう」
 問いかければ、慣れない口調で、そっと言葉が紡がれる。
「何がだ?」
「け、ケーキとコーヒー」
「あぁ……」
 なんだ、と暁弥は呟く。単に、気まぐれに過ぎないのにと続ければ、飛鳥は「そう、なの?」と少し寂しそうに、瞳を瞬かせる。
「……多分な」
「多分?」
 暁弥の真意を測りかねる様子で、飛鳥は難しげに首を傾げたが、すぐに気にするのは止めて。
「でも、ありがとう」と、お礼を伝える。
「……お前も、物好きな奴だ」
 そんな飛鳥の様子に、暁弥は再び苦笑しつつ「ほら、早く食え」と、皿を彼女の前へスライドさせる。
「うん……いただきます」
 こくんと頷いて、フォークを伸ばした飛鳥は、一口ケーキを頬張ると、美味しそうに笑みをこぼす。
 その様子に、暁弥も微かに……ほんの少しだけ笑んだ。

 BGMも無く、人の声も僅か。
 これは、そんな静かな夜更けの喫茶店で過ぎ去った、ささやかなクリスマスのひととき。




イラストレーター名:寛斎タケル