歌胤・カノン & 御桜・深柑

●Traumerei-トロイメライ-

「さて、どれがいいかな?」
 クリスマス当日、カノンと深柑の姿は、一軒のオルゴール店の中にあった。
 この日まで、悩みに悩んだ末に、結局プレゼントを決め切れなかったカノンは、深柑と一緒にプレゼントを選びに来ていた。
 あちこちの店を見て回りながら相談するうちに、カノンがオススメの曲をプレゼントする事で話が纏まり、2人でオルゴール店まで足を伸ばした所までは良かったのだけれど……。

「これはどう?」
「うーん……ちょっと……」
 カノンが試しに鳴らしたオルゴールの旋律に、深柑は難しい顔で首を振った。
 反対に、深柑が綺麗な小箱を手に取れば、その音色に今度はカノンが難色を示す。
 2人共満足できるようなオルゴールを探すのは難しくて、なかなかどれにするか決められない。
「綺麗な曲か、それとも明るい曲か……どういう曲にすべきか、悩むところだな」
「私ロマンチストだから、できればそういった曲がいいわ」
 ふむ、と考え込むカノンに希望を言う深柑。2人は店内を更に回りながら、いくつかのオルゴールを手に取るけれど、でも、やっぱり、いまいちピンと来る物が見つからない。

「……あ、これとか、どうかしら?」
 もう、何個目になるだろうか。
 次に深柑が手に取ったのは、ふと目を引いた赤いオルゴール。
 蓋を開けて、ぜんまいを回せば、どこかで聞いた事があるようなメロディが流れ出した。
「これ、いいわね」
「トロイメライか……なるほど。もう少しクリスマスっぽい曲の方がいいかと思ったが、似合ってるんじゃないか?」
 その幻想的な音色に耳を傾けて、深柑が小さく頷く。その様子に、カノンも同意を示す。
 ようやく2人の意見が合致したのを受けて、カノンはそのオルゴールを買うと、そのまま、すぐに深柑へプレゼント。
「ありがと。……カノンに貰った物だから、ずっと大切にするね」
 深柑はオルゴールを受け取ると、そのまま、とても大切そうに、ぎゅっと手の中で抱きしめた。

 買い物を終えて、2人がオルゴール店を出れば、外はもうすっかり暗くなっていて。
 2人は日が暮れたクリスマスの街を、隣り合わせに並んで歩くのだった。




イラストレーター名:熊虎たつみ