敷武・雷 & 神谷崎・刹那

●今夜のデザートは……

 小さなアパートでも、2人で一緒にいればそれだけで充分。
 大好きな彼女が作ってくれたクリスマスディナーは、ささやかかもしれないが、彼女がいること、そうして彼女が作ってくれたことがとても嬉しい雷。
 好きな人が自分の手料理を美味しそうに食べてくれる。しかもそれを近くで感じられることがとても嬉しい刹那。
 2人だけの小さなクリスマスパーティーだけれども、好きな人と言うだけでこんなにも嬉しくて、小さなことでも楽しいと思ってしまう。

 メインディッシュのローストチキンをあらかた食べ終わって、後は紅茶かコーヒーと一緒にデザートにしようかと、刹那が水を淹れ湯を沸かす。
 火を掛けると椅子に座り直し、雷の方にまっすぐに視線を向けて笑顔で尋ねた。
「クリスマスプレゼントは何がいい?」
「刹那……君が欲しい」
 刹那の言葉に間髪入れずに返す雷。その声は低く視線はまっすぐに刹那を捉える。その声のトーン、まっすぐな視線から真剣だと言うことが伝わってくる。
 だからなのか雷の言葉を聞いたとたん、まっすぐに雷を見ていた刹那の視線が恥ずかしそうに伏せられ、恥ずかしさからなのか、それともまた別の理由からか、彼女の頬に朱がさす。
 伏せられた視線は戸惑いがちにあげられるものの、それは雷を捕らえることはなく、落ち着きなく困ったように彷徨い、また伏せられる。
 が、視線が伏せられたと同時に、彼女は小さく頷いた。
「なっ……え、そ、その…………わっ、分かったわよぉ……」
 彼女の言葉と頷く仕草の後、雷は彼女の方に向かう。
 白いエプロンのフリルを指先でたどりながら、刹那の額に口づけを落とす。その後はもう待てないかのようにそのまま床へと彼女を誘う。

 床の上に広がる彼女の艶やかな黒髪。
 雷の赤い髪の毛が、彼女の白い肌の上に散る。
 さっきまでの楽しげに交わしていた会話はなく、静かな時間の訪れ。
 切なげな時間が流れていく。




イラストレーター名:イプシロン