●聖夜の甘いひと時
その日まで、彼女は不安だった。
大切な日に、大切な人を喜ばせるために。
うまくいくか、かなり不安ではあったが、やるしかない。
大切な人の笑顔の為に。
「鼎ちゃ~ん! こっちよん」
鼎が待ち合わせ場所についたのは、約束の時間の10分前。
それでも、夜宵を待たせてしまった事に少し胸が痛くなる。
「遅くなってすまない」
「そんなの気にしないのん。それに私も来たばかりですものん」
夜宵は黒のタイトドレスに暖かい上着を羽織っていた。
何故か、眩しく見えるのは、気のせいだろうか?
「それじゃあ、行こうか」
そっと、夜宵の手を取り、歩き出す。
「どこに行くんですのん?」
そう尋ねる夜宵に鼎は、彼女の耳元で囁いた。
「とっておきの店」
その答えに夜宵はくすりと笑みを浮かべる。
「それはとっても楽しみですわん♪」
ぎゅっと鼎の腕に抱きつき、目的地へと向かったのであった。
素晴らしいディナーを満喫した後、二人はとあるホテルのスイートルームに来ていた。
「素敵なお部屋ですわねん」
上着をクローゼットにしまいこむと、すぐさまソファーに座り込む夜宵。
「とっても、ふわふわですわん」
「喜んでもらえたようだな」
嬉しそうにソファーの感触を楽しむ夜宵の姿に、鼎はほっと胸をなでおろしていた。
こうして、恋人と過ごすのは初めてであった。
店もホテルも一人で見つけて予約して、緊張の連続であった。
「夜宵」
真剣な眼差しで夜宵を呼ぶ鼎。
「どうかしましたのん?」
「ずっとそばにいて欲しい……」
その言葉に夜宵は静かに微笑んで、頷いた。
「もちろんですわん」
静かな時間。
ソファーに隣り合って座っていた二人。
いつしか鼎は、夜宵の膝枕で眠っていた。
疲れたのだろう、気持ちよさそうに幸せそうに眠っている。
その鼎の黒髪をなでながら、夜宵は優しい眼差しで鼎を見つめていた。
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