●屋台でクリスマス
賑やかなクリスマスソングが流れる。
その曲をゆっくり聞く間もなく、悟とみずるは、雑踏の中を駆け抜けていく。
なぜなら……。
「いたぞっ!!」
いつも聞いている、あの仲間達の声が聞こえた。
「先輩、ええ?」
悟の言葉にみずるは頷く。
「はい、いつでも」
悟の合図を受けて、みずるは。
「忍術微塵がくれの術ですっ!」
とはいっても、それは忍術でもなんでもない。みずるが放ったのは、けむりの出る玉。投げると中に入っている花火も炸裂する。けむりと激しい音に、相手はひるみ、その間に逃げようというのだ。
「このまま突っ切るで!」
「了解です」
囁くように声をかけながら、二人はけむりの外へ飛び出した。
自分達を追っていた仲間達はまだ、けむりの中。
二人はもう一度顔を見合わせ、思わず笑みを浮かべた。
彼らは冷やかす仲間達の追っ手を逃れ、北や南、東西へと駆け回った。
それも、二人っきりの時間を作るためのもの。
学園を飛び出して、どのくらいの時間が経ったのだろう。
気がつけば、もう既に暗くなり、辺りには二人しかいなくなっていた。
どうやら、彼らの望む結果が得られたようだ。
「はーっ。やれやれや」
ほっと一息つく悟。
「ええ、少し疲れちゃいましたね……あら、あれは……」
と、みずるは遠くで暖かな光を見つけた。その灯りに吸い寄せられるかのように近づいていくと、それは、ラーメン屋の屋台であった。
「いつもはここにはないんですが……あ、ここ、とっても美味しい屋台ですよ」
ときどき来るんですと、みずる。どうやら、みずるのお気に入りの店でもあるようだ。
「ごめんな〜先輩。古武道部でプレゼント交換会の主催とかやっとったら、予約入れるんすっかり忘れとってん。来年はちゃんとした店を予約するさかい、今年はここで許してな」
そういう悟に、みずるは気にしないでと応える。
「それよりも、早く頼みましょうよ。すっごく美味しいんですよ」
実は、一緒に食べたかったんです……そう、消え入りそうな声でみずるは告げた。
(「この店、先輩が好きやっていうとったところやさかい、こっそり根回ししといたんや。まぁ、他の店でも良かったんやけど、ここで1つの席で肩並べて一緒に食べるんもえぇやろ」)
ずるずるとすする音が聞こえる。
「おっ! めちゃうまっ!」
その悟の言葉にみずるも嬉しそうな笑みを浮かべた。
小雪舞う夜空の下。
2人で並んで、屋台のラーメンを食べて過ごす2人のクリスマス。
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