十六夜・紫苑 & ジャスティ・ヴァンバード

●初めて会った場所で…

 待ち合わせは21時。
 場所は今は使われていない郊外の小さな教会。
 先に到着したのは紫苑。
 時間までまだ少しある。
 教会の中はひんやりと静かで、月明かりでステンドグラスが緩く瞬く。しかしステンドグラスは完全ではなく、少しだけ割れてしまっていた。
「……このプレゼント……気に入って貰えるかしら……」
 割れて床に散らばった、色のついたガラスを眺めながら呟く紫苑の手の中には綺麗にラッピングされた小さな包みがあった。

 どれくらい紫苑がそうしていただろうか、21時を少し回った。
 教会の中に入ってくる一人の男性。それは遅れてしまって慌てた様子のジャスティ。
 小さな教会。中に入ればすぐに彼女の姿を見つけることができる。
 見えるのは小さな華奢な背中。
 ジャスティはそのまま静かに教会内を行き、彼女のすぐそばまで来るとその両腕を伸ばして紫苑の体を後ろから抱きしめた。
「……遅れてすまない……」
 抱きしめたまま遅れたことを詫びるジャスティの言葉は、紫苑の耳元で優しく囁かれ。
 その言葉に、突然抱きしめられたことに、あまりに突然の出来事で紫苑が驚いて後ろを振り返る。

 何が起こったのか、どうしたのか、紫苑が色々と落ち着くまでに少しだけ時間を要した。
 紫苑が落ち着いた後、二人が取り出したのはそれぞれ持ってきたキャンドル。
 静かにそれに灯りを点すと、月明かりだけだった教会内に温かな灯りが辺りを薄く照らす。
 紫苑が胸に抱えていた小さな包みをジャスティに差し出すと、ジャスティも紫苑に包みを渡す。
 二人だけでクリスマスを祝い、プレゼントを交換する。
 ジャスティから貰った包みを開けて紫苑の顔がほころぶ。翼をモチーフにしたシルバーネックレス。嬉しそうにそれを首に掛ける。
 紫苑からジャスティへのプレゼントは手作りの緋色の結い紐。ジャスティも嬉しそうにありがとうと、紫苑に礼を告げる。

「あの時……此処でもう一度……しかもクリスマスに会うなんて、思いもしなかったです」
「俺も、あの時限りだと思っていた……」
 プレゼント交換の後、ゆっくりと教会内を見渡す紫苑の言葉に、小さな困ったような何とも言えない笑みを浮かべたジャスティが答える。
 ここは二人の思い出がある場所。
 初めての出会いの場所。
 あの時には想像も出来なかった。けれども今こうして、二人で笑い合っている。
 緩く灯ったままのキャンドルは、しばらく二人を温かく照らしていた。




イラストレーター名:春一