●いつまでも傍に…
遠くでお馴染みのクリスマスソングが流れている。
久狼と美咲は、二人並んで道を歩いていた。
美咲の吐く息が白い。
(「やっぱりちょっと寒いですね。でも、一緒にいられるだけで心は暖かいです……とっても」)
そっと、美咲は隣にいる久狼を見た。
「今日はありがとうございます」
「こちらこそ。誘ってくださって、ありがとうございます」
二人は顔を見合わせ、笑みを浮かべる。
二人の行き先、それは街のクリスマスツリーであった。
目の前に佇むのは、大きなクリスマスツリー。
煌びやかな飾りとイルミネーションに彩られたツリーの周りには、親子連れやカップル、親しい友人達とで賑わっていた。その輪の中にそっと、久狼と美咲達も加わる。
「綺麗ですね……」
「ええ……」
二人はそろって、ツリーを見上げる。
少し肌寒く感じるのは、やはり冬だからだろうか。それとも……。
ふわりと、何かが落ちてきた。
白い雪。
それは、はらはらと舞い散る花びらのようにゆっくりと落ちていく。
「あっ……」
見上げていた美咲の頭の上に何かが被さった。久狼が自分のジャケットを傘のようにかけたのだ。
最終的には、自分のジャケットを脱いで、美咲へとかけてあげる。
「く、久狼さん、寒いですよ。風邪ひいちゃいますよ」
「……ああ、私は大丈夫です。……ホラ言うでしょう? 気まぐれは風邪ひかないって」
「えっ、あ、はい……って、言いませんから……」
久狼がもっともらしく言うので、思わず頷きかけてしまった美咲。
けれど、その優しさが美咲にとって、何よりも嬉しかった。
久狼に嫌われていない事はわかっていた。
きっと大切な仲間だって思っていてくれている事も。
前に一度、告白したときは実らずに、儚い夢のように消えてしまったけれども。
(「それでも、傍にいられるだけで幸せ……」)
だからと、美咲は思う。
この胸に秘めた『想い』は隠しておこうと。大切な人を困らせないように。
「メリークリスマス……久狼さん」
白檀が香る小さなお守りですと、月並みな言葉を添えて。
小さな贈り物を、貴方に……。
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