●クリスマスというより何時もの光景
街の中はクリスマスと言うだけで、おもちゃ箱をひっくり返したかのように賑やかだった。
色取り取りの飾りに、かわいらしいオーナメント。
明るい色遣いだけで、街の中をクリスマス一色に染め上げる。
その全てが楽しくて仕方ないと、沢山の人通りの中駆けていく明月。その後ろを今日の買い物の荷物を全てもった紅星がついて行く。
「早く、早くー」
明月はある程度走ったところで、紅星がついてきていないって事に気がつき、紅星の方に振り返り手招きして呼ぶ。その間もずっとそわそわと足踏みしている。
「ぁー。分かってる、分かってる」
早く、早く。と急かす明月に向かって答える紅星。しょうがないなと想いながらも、目の前で体一杯で楽しんでいる様子を表現している明月を見ると、彼女が楽しいのならそれでも良いかなんて思う。
「もう。紅星ってば遅いんだよ」
「ンなこと、言ったって。荷物が……」
「ホラ、行くよー」
沢山の荷物を持っていればそんなに早く走れないと言う紅星の言葉を明月は最後まで待たずに、紅星の片手を取り勢いよく走り出す。
「――!! チョ! 待て、メイっ!?」
自分の意志とは関係なく、手を引っ張り走ろうとする明月に、紅星が声を上げるが時既に遅し。
―――――――― ベチャっ!!
走るのとはまた違う妙な音がして、明月が後ろを振り返った。
そこには沢山の荷物を持って走るのに、バランスを崩してしまって大きく前のめりに転んでしまった紅星の姿があった。
突っ伏したままの紅星を黙って見下ろす明月。
ほんの少しの空白の時間の後、明月は楽しそうな笑い声を上げた。
「笑うなっ。メイのせいだろっ!」
コロコロと良く響く笑い声に、顔だけむくりと上げた紅星が文句を言う。
今度桜が咲く頃には二人そろって中学生になる。
ちょっとだけ大人になる楽しみと、小さな不安。
けれども今日みたいにクリスマスだからといって、特別な出来事ではない普通の日常のなかで、沢山けんかもして、沢山笑い合っていけたら、それはとても嬉しいこと。
だから明月は笑って、こけたままの紅星に片手を差し出した。
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