●その距離はきっと近・・・い?
アレックスと美香は、夜の公園の中を歩いていた。
もう少し歩いていけば、クリスマスツリーが見えてくるだろう。
でもその前に。
アレックスは心に決めていた事があった。
恋には遠いと思っていた。
けれど。
いつしか、恋人と呼べる人ができていた。
だからこそ、この日に、彼女を誘って公園まで来た。
寒い夜。
隣に居る大切な人。
大切な人と迎える初めての日。
そう思っただけで、体がこわばり、緊張してしまう。
楽しい日にしたいのは、アレックスも美香も同じ思いであろう。
今日は素敵なクリスマスの日なのだから。
アレックスは、ゆっくりと自分の手を美香の手に近づける。
視線は美香を見ていない。
だが、その手は確実に美香の手に近づき……もう少しというところで、離れてしまった。
そう、アレックスはこの日、何としてでも美香の手を繋ぎたかった。
今まで何もしていなかったから、せめて、今日だけは。
だが、初めての経験な上に、クリスマスという大切な日という事。
それが、アレックスの手をこわばらせ、なかなか目的地までたどり着けずにいる。
(「がんばらないと……がんばらないと……」)
がんばるアレックスの隣では、美香が少し不機嫌そうな表情を浮かべていた。
それにアレックスが気づいていないのは、手元や別の方向に顔を向けているから。
そして、美香の手がアレックスの手に近づけているのも、きっと気づいていない。
(「な、何をしているんですの? さっさとつなげばいいものを……」)
じれったくて。いらいらしてしまう時間。
ゆっくりとまた、アレックスの手が近づき。
今度こそは。
きっと、その手が繋がるだろう。
こんなにも二人の手が近づいているのだから……。
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