片桐・彩音 & 春原・界音

●【Silent Sweet Night】

 賑やかだった夜。
 さっきまでの賑やかさは少しずつ、静かさへと変化していた。
 サウンドショップ『Allegretto』も、既に閉店時間を向かえていた。
「明日はクリスマス……今年も残りわずかですね」
 この店の店長である彩音は、そういって、店内に飾ってあるツリーの下へやってきた。
 ツリーの天辺にある傾いた星を直すためだ。
 脚立に乗り、直そうと手を伸ばして。
「あっ!」
 がくんとバランスを崩して落下……するはずだった。
「……っと、セーフ」
 丁度通りかかった界音が彩音を抱きとめたのだ。
 お姫様抱っこされる形で、彩音は大怪我をすることなく、無事に助け出されたのである。
 バランスを崩してしまったのは、ここしばらく忙しかったからだろうか……。
 そう、彩音は思い始めていた。

 去年のクリスマスの日。
 界音と彩音は付き合い始めた。
 恋愛にはわりと淡白(?)な彩音。
 付き合う前までナンパだった割には、特に慌てて関係を進めようともしない界音。
 この二人の間は、今だキスもない関係であった。

 そして迎えた1年目。
 何も進展はなかったが、二人の思い出はこの一年でたくさん育まれていた。
 と、彩音と界音の視線が合わさる。
 まだ抱えられたままでいる彩音。
 そっと、界音は顔を近づけ、自分の唇を彩音の唇の上に重ねた。
 彩音も拒むことなく、それを受け入れ、瞳を閉じる。
 静かな時間。
 二人だけの夜。
 初めてのキスに彩音は次第に頬を染めていき、界音の胸元にしがみついた。
 それは、落ちないように? それとも……。

 ゆっくりと彩音は床の上に降り立つ。
 落ち着いたものの、顔の火照りと照れはなかなか取れない。
「来年もよろしくお願いしますね」
 彩音は俯いたままそう、界音に告げる。
「来年も再来年も、ずっと、ね」
 界音は穏やかな笑みでそう答えた。




イラストレーター名:夢観士 あさき