●年末と言う名のクリスマス?
クリスマスの夜、恭平と鈴音は買い物帰りに街角を歩いていた。
イルミネーションに照らされた恭平の元には、トイレットペーパーや灯油、そして沢山の食料品。
ぎっしり荷物を抱えた彼の隣で、身軽な鈴音はふと足を止めると、大きなツリーを見上げた。
今2人が一緒にいるきっかけは、恭平が1人寂しくクリスマスを前に歌を口ずさんでいたからだ。
「……シングルベル、って事は暇なのよね。……年末物資の買出しに付き合ってくれないかしら」
その内容を聞きつけた鈴音が、恭平にそう提案する。あまりに大量な荷物に恭平は思わず目を丸くするが、彼女いわく、冬は寒いからいろいろ買い込んで、できるだけ部屋の中で過ごすらしい。
「こたつの中に埋まってたり?」
「……ええ……コタツムリと化すわ……」
なんとなく鈴音のそんな姿を想像しつつ、恭平はそれを引き受けた。
持ちきれるのか怪しいくらいの大荷物だったが、そんなことは関係ない。
恭平が彼女の誘いを断るような事、あるはずがないのだ。
だから、彼女が言うままに荷物を抱えて。運搬用に持ってきたリュックサックも満杯になって、ずっしりとその重さを伝えてくるけれど、恭平はそんなの気にしない様子で歩いている。
流石に、ランジェリーショップに行くと言われた時には、そこまでは一緒に行けないとその足が鈍ったけれど……。
それ以外は何の不満も唱えることなく、彼女に付き従っていた。
それも、どこか嬉しそうにすら見える様子で。
「……綺麗、ね」
そうして買い物するうちに、すっかり日は沈み時は夜。
遅くなってしまったけれど、そのお陰でイルミネーションを楽しめたのだから、これはこれで悪くないかもしれない。
「うん、すごいよな」
鈴音の言葉に、すぐそう頷き返す恭平。
こうやってイルミネーションまで眺められるだなんて、ラッキーだとばかりに笑う。
その手には、蜘蛛の巣が描かれた真新しい手袋。その感触が、沢山の荷物を持つ手を冷気から護り、そっと暖めてくれる。
これさえあれば、きっと外にいても暖かい。
でも、いつまでも外にいては、彼女の体が冷えてしまうから。
「そろそろ行くか?」
「そうね。あまり遅くなりすぎても大変だし」
頷く鈴音の体には一枚のストール。ふわっと体を覆うそれは、ときどき吹く冷たい風を防ぎ、体をほんのり暖めてくれる。
「……さ、行きましょ」
イルミネーションに背を向けて歩き出す鈴音、それを間髪おかずに追う恭平。
何気ない日常のようでいて、でも、普段とは少しだけ違う。
2人は、そんなクリスマスのひとときを、共に過ごしたのだった。
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