淵叢・雹 & 漣・雨水

●メリー クリスマス

 とんとんとんっと、小気味良い包丁の音が聞こえる。
 雨水は椅子に座って、その光景をほんわかしながら、眺めていた。
 調理をしているのは、雹。長い髪を一つにまとめて、用意された野菜を次々と鍋に入れていく。
 ことことと煮立っていく鍋。
「すみません、お手伝いできなくて」
 思わず雨水が言う。
「気にしなくてもいいわよ」
 材料を切り刻みながら、雹は告げる。
 それにと、雹は思う。
(「あまり上手くないのよね……」)
 改めて、自分の切った具材を見る。多少不恰好なのは……ご愛嬌。
 苦笑を浮かべながら、お玉で鍋をぐるぐるとかき回す。
 鍋の中にはにんじん、じゃがいも、たまねぎといった定番の具材に。
「肉も用意してるとは……流石ね」
 めったに入らない肉を眺め、思わず笑みを浮かべる。
 後はルウを入れ、たくさんの牛乳を入れるのみだ。もうひとがんばりと、雹は自分の袖をまくった。

 美味しそうな香りが食卓を包み込む。
 出来立ての暖かいホワイトシチューが入った鍋を、雹は両手でゆっくりと運んできたのだ。
「お疲れ様でした」
「……か、形は保障しないけど、味は悪くないはずよ」
「そう、なんですか? とっても美味しそうに見えますが……」
 まじまじと雨水は、鍋の中を覗く。少し歪な形をしているが、雨水にはそれが気にならない様子。
「気にしてないのなら、それでいいわ。えっと……とにかく、食べましょうか」
 二人は食器を用意し、皿にシチューを注いでいく。
 雹はことりと、雨水の前に湯気の立つシチューを置いた。
「い、いただきます」
「熱いから、気をつけて」
「あ、は、はい」
 スプーンですくって、少し冷ましてから口の中へ……。
「美味しい……」
 幸せそうな微笑を浮かべ、雨水はまたシチューを口に運ぶ。

 二人は互いに思う。
(「去年はまだこういうことやるって関係じゃなかったのよね……改めて二人でクリスマス過ごすなんて、なんだか照れくさいわね」)
(「二人で過ごせるのは嬉しいですけど、反面酷く気恥ずかしいです」)
 気づけば、二人の頬は薄らと赤く火照っていた。
 食事を終え、二人はいつになく照れくさそうに、用意していた包みを手渡した。
「……ぷ、プレゼント。何がいいか良く分からなかったから……」
 大きな包みを渡したのは雹。その中身はオイルランプ。
「えっと……その、これは私からのプレゼントです」
 照れくさそうに手渡された小さな包み。それをあけてみてみると、そこには白金のバレッタが。
 こうして、暖かくも照れくさい二人のクリスマスは、ゆっくりと幕を下ろしたのである。




イラストレーター名:ヤトアキラ