●ふたりのはじまり
学園の中はどこもかしこもとても賑やか。あちらこちらからから楽しげな笑い声が響いている。
そんな誰ともつかない笑い声をつまらなさそうに聞きながら、静かな廊下を歩いていく留実。
どのイベントにも参加もしていなければ、相手も居ない。
暇だな、退屈だなー。と、普段自分が通っているキャンパスとは別のキャンパスを歩いていく。
別にあてがあって歩いてるわけじゃないから、どこが終点というわけでもない。けれども不意に彼女の足が止まった。
立ち止まった留実の視線の先には、教室内に飾られた花と少年が居た。
教室内を飾っていた花を片付けていた聖雄。
彼もまた一人だったが、彼は自ら一人で居ることを選んでもう使用が終わった教室の花を片付けていたのだった。
残った花で一つぐらい花束を作れないものかと、その場にはった花を束ねていくと、なにやらこちらに向けられている視線に気がつき、振り向いた。
自分の事を見ている留実の姿が目に入り、何となく小首を傾げる。
彼女を見た後、自分が持っている即席の花束に視線が落ちる。
留実が自分が作った花束を欲しそうに見えた聖雄は、彼女の方に花束を差し出した。
「ん? 欲しいならやるぞ?」
あまりもので作ったものだしと、聖雄は無造作に留実の方に差し出した。
突然自分の方に差し出された花束に驚きつつも受け取る留実。
「あ、ありがとう……」
お礼を言う彼女の中で、この一瞬がまるで、時間を切り取ったように止まったような気がした。
渡された小さな花束と、自分に向いている聖雄の視線。
面食いな留実は、聖雄から視線が外せなくなってしまう。
今日初めて出会った彼。
初めて交わした会話。
もう少しこのままで居たいと思ってしまう気持ち。
これは、まるで……。
ああ、と留実は花束を握りしめながら思う。
そう……。
彼女は彼に、一目で恋に落ちてしまった。
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