玖珠・壱帆 & 涅槃・萃嘩

●present for me・・・?

 今まで、一人だった。
 たった一人の生活。ただ、毎日を過ごすだけ。
 でも、今は違う。
 きみがいるだけで、こんなにも違ってくるのかと。
 賑やかな日々。忙しい事も辛いことも嬉しいときも楽しいときも。
 全てが華やかになったのは、きみがいるから。
 忙しい日が続き、互いにすれ違うことも多くて。

 やっと二人の時間が取れたのは、クリスマスイヴの当日だった。

「いっちぃ、いっちぃ! こんな感じでいいかな?」
「うん、バッチリ」
 萃嘩は、綺麗に飾った小さなツリーを壱帆に見せた。
 壱帆は満足げな笑みを浮かべて、萃嘩を労う。
 二人だけの部屋の中、ゆったりと流れる時間は、とても暖かくて嬉しくて。
 きっとこれは、クリスマスがくれたワクワクとドキドキ。
 それを二人で一緒に楽しめるのだから、嬉しさも楽しさも倍増。
 さあ、クリスマスのご馳走と、甘いケーキを用意しよう。
「あ、すいかちゃん。ほらもう、ほっぺにクリームついちゃってる」
「え? どこどこ?」
 拭おうとするも、それは別の場所。仕方ないなと、壱帆は萃嘩のほっぺについたクリームを指ですくってあげる。
「ありがと、いっちぃ」
「どういたしましてだよ」
 二人はそう、くすくすと笑い合った。

 止まることのないお喋り。それはずっとすれ違っていたからかもしれない。
 会えなかった時に話せなかった事があるのだから。
 忙しくてすれ違って、二人で過ごす時間もあまりなかった。寂しくなかったといえば嘘になる。
 それなのに。
 こうして互いに話をするだけで、相手が何をしていたのかを知るだけで、会えなくて寂しかった気持ちが、まるで氷が解けるように消えていく。嬉しくて幸せな気分になってしまう。
 あっと、壱帆が思い出したかのように、可愛らしくラッピングされた包みをそっと、萃嘩に手渡した。
「はい、クリスマスプレゼントだよ」
「わあっ! ありがとう、いっちぃ!」
 萃嘩はさっそく中身を開ける。そこには、黄色のリボンが入っていた。
 それにすっごく喜び、でも、その笑顔はすぐに消えてしまって。
「……うっ……ごめん、ボク、いっちぃに渡すプレゼント、持ってないよ」
 泣き出しそうな萃嘩に、壱帆はわかっていたと言いたげに微笑む。
 壱帆は黄色のリボンを手に取り、そっと萃嘩の頭に結びつけた。
「……いっちぃ?」
 きょとんとする萃嘩に壱帆は、もう一度、優しく微笑んだ。
「きみが、あたしには最高のプレゼントだから」
 壱帆に頭を撫でられ、恥ずかしそうにしていた萃嘩も、思わず笑みを浮かべる。
「ホントにありがとっ! いっちぃ!」
 お返しといわんばかりに、萃嘩はぎゅっと壱帆に抱きついた。

 暖かい部屋の中。
 いつの間にかしゃべりつかれた二人は一緒に眠っていた。
 心地よいまどろみの中で、きっと、同じ幸せな夢を見ながら……。




イラストレーター名:ことね壱花