瀬戸内・鷲羽 & 狗村・八雲

●こんなふたりのクリスマス

「や、やはり2人きりのクリスマスというのは緊張するの……ってこら八雲! 今日くらいは大人しゅうしておれよ!」
「う……うむ。わかっておる」
 今日は楽しいクリスマス。
 鷲羽と八雲は、2人だけのクリスマスを・パーティを過ごしていた。
 日頃の八雲の行いを知っている鷲羽は、ケーキを切り分けながら釘をさす。最初は「まどろっこしいことなんてすっ飛ばして、メインディッシュを……」なんて考えていた八雲も、今日は雰囲気を大切にしようと考え直して、いたって静かに普通にパーティを楽しんでいた。

 料理を味わい、紅茶をいれて。美味しいケーキに舌鼓。
 そうしたら食器を片付けて、ほんの少しだけ一息……つくはずだったけれど、鷲羽は否が応でも緊張感が高まっていくのを感じていた。
「……まさか、おぬしのような女好きのセクハラ変態男と過ごすことになろうとはのぅ……」
「む」
 思わず言い返そうとした八雲の耳に、小さな囁きが届く。
「まぁ、そいつに……ほ、惚れるわしも、相当な物好きということじゃな」
「鷲羽……!」
 はにかみながら、鷲羽は紙袋を八雲の方へ差し出した。
「プ、プレゼントじゃ。たいしたものじゃあないが……受け取ってくれ」
「おぉ! 鷲羽からのプレゼントなのである!」
 真っ赤になった鷲羽からのプレゼントに、大感激する八雲。その照れている姿が、いじらしくて魅力的で……。
「マ、マフラーじゃ。初めてなんで上手くはできなんだ、が……」
 まともに目をあわせられなくて、顔を逸らしながらそう言う鷲羽の姿が、またたまらない。
(「ああ、我輩の食欲以外の欲求を盛大に刺激しまくりなのである!」)
 くううっ。
 紙袋を抱えたまま葛藤する八雲。
 答えは三秒もしないうちに出た。
 ぺいっと紙袋を放り投げて、そのまま目指すは鷲羽のところ。
 彼女の腕を取り、その体を抱きしめたら、その勢いのまま、そのまま……。

「!!」
 背後のベッドに鷲羽を押し倒すようにして雪崩れ込むと、そのまま彼女にキスをする。
 触れて、触れて、触れ合って。
 ひとしきり触れた、その瞬間。
 なんか岩でも砕けそうな豪快な炸裂音が響いた。
 頭に。

「い、いいいいいいいいきなりキスする奴があるか! このばかもんがー!」
「こ、これが我輩のプレゼント……ごぷあ!」
 反射的に繰り出したパンチは、八雲の顔にクリーンヒット。
「そ、そんな……夜はこれからなのに……がくっ」
 見事な一撃に、八雲は力なく倒れた。
「まったく、おぬしというやつは……じゃがまぁ、わしららしいと言えばらしいか……」
 軽く溜息混じりに呟く鷲羽だが、くすくす笑うと、そう思い直して。
「メリークリスマス、八雲」
 倒れている八雲の耳元に、そう囁くのだった。




イラストレーター名:ねこ