鈴海・飛白 & 崗・攻

●クリスマスだから――普段とは違うトキメキを

 イルミネーションを纏った木々が並ぶ街頭に二つの靴音が響く。ふわりと時折舞い降りるのは白い雪。この季節を喜ぶかのように宙を舞い踊る冬の妖精達は冷たい風に乗って夜を楽しむかのようにゆらゆら揺れる。
「寒いわね」
 飛白と攻の二人がここを通りかかったのはパーティーからの帰り道。
「え?」
 妖精達のダンスが伴う寒さに飛白がふと言葉を洩らした直後、衝撃が不快でない圧迫感と温もりを連れてきた。衝撃の方へ僅かに顔を向ければ、そこには飛白の髪に唇を添えた攻の姿が。
「人が見てるじゃない、な、何するのよ!」
 婚約者同士の二人、家でのスキンシップは慣れては居ても、ここは周囲には行き交う人もいる街頭だ。
「コレであったかい?」
 怒りか照れか頬を染めつつ抗議する飛白に構わず、腕の中の暖かさをと外の冷たさに新鮮なものを感じながら攻は抱きすくめたまま目を閉じて婚約者に尋ねる。
「こういうところでべたべたするのもまた違うね〜」
 いつもならのほほんとしながらいう台詞だが、今日は調子が違っていた。

「……暖かいわ」
 しばらくされるがままに抱きしめられていた飛白が頬を紅潮させたまま小声で答えたのも珍しく新鮮で。
「そ、よかった」
 攻は目を閉じて再び飛白の髪に唇で触れた。温かな吐息が髪を透けて耳のあたりに温もりとして伝わってくる、思い出したように頬を撫でる寒風とは対照的に。相変わらず雪は舞っているが、飛白が体感する寒さはだいぶ和らいでいた。
(「今日くらいはいいわ」)
 飛白は自分に言い聞かせるように小さく頷いて、顔を再び婚約者の方へと向ける。
「可愛いよ、飛白」
「な」
 不意打ちで襲ってきた誉め言葉に驚きと共に再び照れくささがこみ上げてきていったん引いていた血が再び上ってきて頬の赤みが増す。
「こ、こんな公衆の面前で……ほ、ホラ、また人が見てるじゃないのよ!」
 風と雪の冷たさも、すっかり何処かへ行ってしまっている。狼狽える婚約者の顔を見ながら攻は腕から伝わる温もりを噛みしめていた。
 家に着くのは当分先のことになるのかも知れない。




イラストレーター名:遊无