●『あー、さみィか?』 『ん、ヌクヌクだよぅ』
「ま、こんなとこだな」
必要なものを指折り頭の中に浮かべ終えると、音虫は止めていた足を動かし始める。クリスマスと言う時期なだけに夜の街中は人で溢れ、クリスマスソングの流れる街路をイルミネーションの光に照らされながら行き交う人々は誰もが楽しそうで自然と足取りも軽くなる。
「オゥ、メゥ。はぐれんよーに。けっこー人が流れてっからなー」
それでも一緒にいる璃莉宇の事を考えて控えめな歩幅で歩く音虫へ、「きーり、大丈夫だよぅ」と元気な返事が返り、はぐれないようにと言われたこともあってなのか、音虫の手が感じていた小さな手の握力がぎゅっと少しだけ強まったように感じた。繋いだ手は温かく、二人が離れることはないと言うように。
「でさー、どんなパーティにする?」
手を繋ぎ歩きながら振り返れば足を止めた璃莉宇がショーウィンドーに目を留めていて、クリスマスカラーの壁紙に囲まれたハーフサイズなクリスマスツリーの根本に積まれたプレゼントに熊のぬいぐるみが背を預け、隣にはお菓子を一杯に盛ったバスケットがおかれている。
「きーり、こう言うのも良さそうだよねぇ?」
「オゥ、そーだな」
首をかしげる様が愛しくて、相づちを打ちながら音虫は頭をぐりぐりと撫でる。
「きーり、こっちも凄いよぅ」
とは言うものの、この時期の商店は何処も素敵なモノに満ちていて、ふと別の窓を見た璃莉宇は今度はそちらに目を輝かせて、音虫のコートの裾を引く。結局この時点では何も買わなくてウィンドウショッピングになってしまっていたが、これはこれで楽しい時間だ。買い物後のパーティを話題に二人は街を行く。
「わぁー」
璃莉宇が歓声を上げたのは店が途切れて前方が開けた街の広場に巨大クリスマスツリーを見つけたから。飾られた電球が星のように瞬いて夜の暗さの中にツリーを浮かび上がらせている。
「ん?」
電球の輝きに反射してキラキラ輝きながら舞い降りるモノを音虫が見つけたのはこの直後。
「うぅー」
降り始めた雪に伴って吹き始めた風は、音虫と比べて薄着気味の璃莉宇には少し辛かったのかも知れない。自分の手を握るようにして身体をちぢこませ震え始めるが、この寒さも長くは続かなかった。ポフっと言う音と共に見覚えのあるコートの繋ぎ目が左右から迫ってきて璃莉宇を包んだのだから。同時に背に伝わる温もりが誰のものなのかも璃莉宇には解っていた。
「メゥさー。あー、さみィか?」
雪の粒が大きさと数を増して勢いを強め、相手をの方を見ず雪を投下する雲を眺めて音虫が口にした問に璃莉宇は頬を染め微笑みながら答える。
「ん、ヌクヌクだよぅ。きーりと一緒だから」
雪の勢いが増そうとも二人で居れば温かい、立ち上る白い吐息の向こうでツリーにされた街路樹がささやかに自己主張をしていた。
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