●お氷姫様抱っこ。
「あ」
突然、かくんと氷姫がバランスを崩した。
……ぱきっと、何かが景気よく折れるような音が聞こえた気がする。
慌ててハイヒールの裏を見れば、踵の部分が見事に折れてしまっているのが見えた。
「あー、やっちゃった」
「大丈夫か?」
クリスマスパーティの帰り道、最後の最後にこうなってしまうだなんて、ついてない。
慣れない物を履いたせいだろうかと、思わず苦笑いを浮かべる氷姫。そんな彼女を、稜牙はすかさず支えるように抱きかかえた。
そのまま、ひょいっと彼女の身体を持ち上げる。……お姫様抱っこの姿で。
「え? ええ!?」
突然の出来事に、目をぱちくりさせる氷姫。でも、稜牙はしれっとした顔をしたまま。
彼女が戸惑っている間に、そのまま稜牙は歩き出す。
稜牙が、こんな行動に出たのは、ちょっとした理由がある。
これからはもう少し積極的に行動しようと、そう密かに決心したのはついさっき。クリスマスパーティの最中でのこと。
そう誓ったすぐ後に、こんな出来事があったのだから……ここで行動しない訳には、いかないのだ。
だから当然のように、有無を言わせず彼女を抱き上げて、そのまま歩き出す。
「ちょ、稜牙ぁ……も〜〜〜!」
うーっ、と頬を赤くして抗議する氷姫だが、もちろん稜牙はそんな事なんて気にしない。
氷姫はむむーっと頬を膨らませるが、言っても無駄な事を悟ると、どうにもならないものはどうにもならないのだからと、どうせなら、彼に甘える事にする。
腕を、伸ばして。そっと彼の首に回して。
少しだけ、顔を近付ける。
「……あ、足、怪我しなかったか?」
甘えてくる彼女の事を最初は可愛いと、そう微笑ましく思っていた稜牙も、至近距離まで彼女の顔が近付けば、流石に動じないままとはいかなかった。少し照れ臭そうにしながら、それを誤魔化すように話しかける。
「ん、平気」
氷姫は、更に稜牙へ寄りかかる。
彼が自分を、さっき微笑ましそうな視線で見ていたことを知っている。
だからこそ、いつになく近付いてあげる。
……ちょっとくらい恥ずかしやがれよう、という氷姫の反撃は、それなりに成功しているようだ。彼の照れ恥ずかしそうな様子を見ながら、氷姫は彼に知られないよう、そっと笑う。
クリスマスの夜、いつもよりも、少しだけ近い距離で。
いつしか降り始めた雪の夜空の下、ふたりだけの、かえりみち。
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