●無数のキャンドルの中で…
楽しげな演奏が会場に響き渡る。
ここはとあるダンスパーティーの会場。
会場には、大きなクリスマスツリーが置かれ、淡いキャンドルの明かりで次々に人々は舞う。
ダンスの邪魔にならない場所には、喫茶スペースも用意され、踊りが得意でない者達も楽しめるようになっている。
楽しげな談笑。
楽しげな演奏。
だが、それももう少しで終わってしまうだろう。
電灯が少しずつ消え、代わりにキャンドルの明かりが増えていく。
まるで楽しかったひと時を惜しむかのように……。
八雲もまた、この会場に来ていた。
思いを寄せる相手がいる、この場所に。
その姿はすぐに見つけることができた。
「あそこにいるのが……そうか?」
思わず目を見張る。
いつもは、ひとつにまとめた三つ網の髪型なのだが、今日はホットカーラーを巻かれたのか、ふわふわと波打つ髪をなびかせていた。
また、服装も違う。
パーティーにあわせてきたのだろう、鮮やかなワインレッドのドレスが、八雲の目に眩しく映る。
いや、それよりも隣に居る男は誰なんだ。
思わず、八雲は飛び掛りそうになるのを堪えながら、想い人である治子の元へと向かった。
「今岡を引っ張り出すとは、さすがイスカの行動力だ」
少し奇妙なほめ方だが、今は気にしないで置こう。
良く見ると、治子の隣に居たのは、同じ学園に通う一人だった。
更に話を聞くと、どうやら、治子のために完璧な裏方を担当してくれたらしい。
口には出さないが、心の中で感謝する。
彼が裏方を担当してくれたお陰で、治子はこのパーティーを楽しめたのだから。
八雲は治子の前に向き直り、そっと手を差し伸べた。
「もしよかったら、俺と一緒に踊ってくれないか?」
「ここまで引っ張りだされたら、無駄な抵抗はしませんよ」
治子は半ば諦めた様子で、けれど、その八雲の手を取った。
思わず八雲は苦笑を浮かべる。
けれど今は楽しもう。
大切な彼女と踊る幸せなひと時を。
気がつけば、辺りはキャンドルの明かりのみになっていた。
淡い明かりが会場を包む。
その中で、治子が満面の笑みを浮かべているのを見つけて。
八雲の口元にも優しい笑みがこぼれた。
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