天見坂・ここね & 西園寺・白颯

●もうずっと、貴女を離しませんよ

「白颯殿……妾はおぬしの事が好きじゃ」
 気丈に振舞ったつもりだった。
 けれども、そんなここねの願いとは裏腹に、心はそわそわと落ち着きをなくしていた。
 長い間、待っていたこと。
 そして、やっと望んでいた言葉が本人から、いや白颯からもらえたのだ。
「永遠の約束なんていりません。ただ、貴女が欲しい」
 熱く優しく向けられた強い視線が、なおもここねのまぶたの裏に焼きついている。
 次第にここねの頬が熱くなってくるのは、気のせいだろうか?
「さあ、踊りましょうか」
 ここねの手をとり、白颯が誘う。ここねも頷き、音楽に合わせて踊りだす。
 きちんと踊らなければ。
 変な格好はできない。
 嬉しい、けれど何だか恥ずかしい。
 胸の鼓動が、早くて苦しくて。
「……!!」
 悟られてはいけない。告白されただけで心を乱すなんて!
 そう思った瞬間、足が思うように動かなくなった。
 さっきまで踏めたステップが、何故かつっかかりそうになる。
「ここね?」
 なだめようと声をかけた白颯。
「な、何でもな……」
 ふっと気が緩んだのか、ここねは足をもつれさせ、転びそうになった。
 傾く体。
 それを支えたのは、白颯だった。
 白颯の胸に飛び込むような形で受け止められ、ここねは床にぶつかる事なく、大事にもいたらなかった。

 かあっとここねの頬が真っ先に赤く染まった。
 白颯の前で醜態を晒してしまったことが、恥ずかしくて恥ずかしくてたまらない。
「白颯殿……」
 思わずここねは潤んだ瞳で、白颯を見上げる。とたんにこぼれる涙。
 白颯は指でそっと、ここねの瞳の雫を拭い、その頭をなでた。
 何も言わず、優しい微笑みを浮かべて。
「あっ………」
 そして、白颯はもう一方の手でここねを抱き寄せた。
 白颯の顔が近づいていく。ここねは堪えきれずにぎゅっと目を閉じる。
 唇を避けて、白颯はここねの耳元で囁いた。
「もうずっと、貴女を離しませんよ」
 その言葉にここねは軽く頷き、少しの沈黙の後に言葉を紡ぐ。
「妾も、ずっとおぬしと一緒じゃ」

 その後、次第に緊張の解けた二人は、流れる曲に合わせて踊り始める。
 ぎこちなかったステップも、今では見違えるように力強く軽やかに。
 こうして、二人は一夜のダンスを心ゆくまで堪能した。
 かけがえのない大切な思い出として……。




イラストレーター名:綾乃ゆうこ