穂村・陽子 & 如月・清和

●スイートクリスマス 〜二人の場合〜

 このパーティー会場からは甘い香りが漂ってくる。
 陽子と清和はそんな甘い香りに包まれて、チョコフォンデュを堪能中。
 赤いイチゴにセピアのチョコを纏わせて。
 酸っぱいイチゴに甘いチョコが良く合う。

「『はい、あ〜ん』って、食べさせてあげよっか? あ、それとも口移しが良い〜?」
 チョコを纏わせたイチゴを清和の方に差し出す陽子は、胸元が大きく開いたミニ丈ワンピースサンタの格好をしている。そんな陽子は清和をからかって、イチゴを口にくわえて、目をつぶって清和の方を向く。
「ョ、ヨ……ヨーコちゃんっ!?」
 セクシーな格好の上に、セクシーポーズに思いっきり声が裏返ってしまう清和。修学旅行からつきあい始めて、半年も過ぎ去ろうとしているのだから、今日こそは……隙があったらヨーコちゃんの唇を奪いにいってみる。と、意気込んでいたのに、それは初っ端からくじかれた。
「あはは、照れない照れない」
 そんな清和の様子に気がついた、陽子は目を開けて笑ってしまった。笑ってしまえば、口にくわえていたイチゴがぽろりとこぼれ落ち、たどり着いたのは彼女のたわわな胸元。それにまたぴきーん。と、悪戯心が芽生えてしまった。
「んみ? 食べる〜?」
 胸を寄せてあげて、清和の方によく見えるように、もしも食べるのなら食べやすいように差し出してみせる。
「――――!? よ、ョ、ヨーコちゃんっ!!」
 顔を真っ赤にして照れまくる清和。もうどうして良いものか分からず、彼女の名前を大きく叫ぶしかなかった。が、視線はしっかり彼女の胸元に釘付け。だって男の子だもん。
「やだ〜。なに本気にしてんの〜? えっち〜」
 清和の視線に気がついた陽子は、大きく笑いながら気数の肩をばしばしと叩き、冗談だというように落ちたイチゴを口に放り込む。

 そんな陽子の行動に、何となく清和は腹立たしいような、自分が不甲斐ないような、そんな気分になってそっぽを向く。
「もういいよっ! ヨーコちゃんは、いつもいつも……いつもっ」
(「ありゃりゃ、調子に乗りすぎたかな?」)
 少し反省した陽子は、黙ってすねている清和の背中を見つめている。普段なら、まだ何か言ってくる陽子からの反撃がないことを不思議に思い、陽子の方を振り返る。
 さっきまでとは打って変わって、しゅん、としおらしくしている陽子が見えた。
 清和は思う。ここが勝負所だと。
 陽子の両肩を抱き、そのまま、ぎこちなく顔を近づけていく。

 真っ赤になりながら、まるで陽子の唇をかすめ取るような一瞬だったけれど、清和の今日の目標は、少しだけ達成された。




イラストレーター名:熊虎たつみ