玉依・美琴 & 黒部・貴也

●聖夜の一時

 キャンドルの明かりに照らし出されたダンスホール。
 そこには数多くの人々がダンスとお茶を楽しんでいた。
 貴也と美琴もこのダンスパーティーに来ていた。

 ダンスの合間の小休止。
 貴也が美琴を優しく抱きしめ、額にそっと口付けた。
 少し照れながらも、美琴は嬉しそうに微笑む。
 そういえばと、美琴は思い出す。
 去年のクリスマスの事を。
「どうかしたのか?」
 必死に平常心を装う美琴。しかし、それは当の貴也にはバレバレだったらしく。

「た、貴也君、あのね……っ!」
 緊張した面持ちで美琴は貴也に声をかけた。
「ちょ、ちょっと、屈んでくれる?」
 くいっと彼の上着を軽く引っ張りながら、美琴はお願いした。
「これくらいでいいか?」
「う、うんっ!」
 ちょっぴり背伸びして美琴は。
「んっ」
 淡いキスをした。唇にほんの一瞬、軽く触れるのを一回だけ。
「あぅ〜、やっぱり、するのとされるのは違う〜」
 真っ赤になった美琴は、はふぅ〜と息を吐きながら、彼の胸に顔を埋めた。
 まるで赤くなった顔を隠すかのように。
「ありがとう、美琴……」
 優しい囁きが、美琴の耳をくすぐったくて。美琴は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「貴也君が喜んでくれて、私も嬉しいよ……」

 去年のクリスマスにしてくれたこと。
 貴也が美琴にしてくれた、初めての口付け。
 それが美琴にとって、凄く嬉しいことだった。
 だからこそ、お返ししたい。
 一年分の愛情と感謝。そして、これからもヨロシクね♪の意味を込めたキスは、貴也も喜んでくれたようだ。

「ねえ、踊ろうよ。もう、大丈夫だから」
「ああ」
 落ち着きを取り戻した美琴はまたダンスホールの中央へと向かう。
 キャンドルの明かりに照らされながら、貴也と一緒にまた、踊り始めるのであった。




イラストレーター名:釈氏トオル