睦文・織己 & 小鳥遊・雅瑚

●Sunset Stroll

 周囲を茜色に染めた夕日に向かって歩く河川敷、何処かここではない場所を見る織己と胸をなで下ろしたような表情をした雅瑚の吐息が重なったのは偶然か。
「初めてのボランティア、良いものですね」
「そうね、ああいったボランティアって初めてだったけれど」
 織己と雅瑚。それぞれトナカイとサンタに扮した姿のまま歩く二人の顔に夕日の紅が刺して二人の後ろに細長い影を作る。夕日の眩しさに目を閉じれば浮かび上がるのは保育園児達の顔とお互いの笑顔。

 主に脳内補正と思われるスポットライトに照らされた織己が幼稚園の庭に降り立ちポーズを決めた時、そちらを見ていたのは三輪車に乗った女の子が一人。いや、ひょっとしたら何かの前ふりだったのかも知れない。
 この後室内に入った織己は、プレゼント用の物なのか細長い箱に括り付け垂れた一輪の薔薇を箱ごと一閃させ、舞い散る花弁の中でやたら演技がかった仕草で白鳥さんの背に片足を乗せるとまるで夢でも見ているかのよう表情を浮かべて口を開く。
「ハハ……未来のお嬢さん、機会がありましたら是非」
 舞い散る花びらを目で追う園児が居る中、告白を受けた女の子は背を向けると大きな声で言った「ちぇんちぇー」と。

 一方で、男の子の集まる部屋へを覗き込んだ雅瑚を待っていたのは、良く言えば逞しくアクティブな子ども達の洗礼。歓声や泣き声、笑い声が元気いっぱいの園児達の姿と共に飛び込んでくる。
「あらら、やんちゃな子も多いのね」
 驚き苦笑した雅瑚のサンタ姿に気がついて玩具のロボットや怪獣を手に駆け寄ってくる、と言うか突撃してくる園児達。
「……でもここで負ける私じゃないわよ♪」
 対する雅瑚が手に持つのは金髪の可愛らしい着せ替え人形。高校生と園児では勝負になるはずもない。
「おイタは駄目よ?」
 元々勝負をする気もなく雅瑚は園児達を軽くあしらうと笑顔を浮かべた。

 園児達と戯れる二人はとても楽しそうで……。
(「隣に大事な人と……未来の美女たち……基、可愛い子供たち。オレもこんな子供と一緒に暮らしたりするのかな」)
(「それにしても小さい子って可愛いなぁ……野球のチームが出来るくらい欲しい、って言う人の気持ちが少しわかるかも……」)
 気がつけば織己の足は止まっていた。
「ん? 織己さんどうかした……?」
 もっとも、回想に浸りながら歩いていた雅瑚との距離はそれ程離れていなかったが。
「ぇ? い、いえ!? 単に可愛いなぁと思っていただけですよ」
 首をかしげて投げかけられた言葉に慌てて返事を返すと誤魔化すように言葉を続ける。
「いつかあんな風にオレにも子供とかできるんですかねぇ……べ、別にやましい意味じゃないですよ!?」
「あら、別にやましいなんて言ってないわよ? ……似たようなコト考えてたし……」
 言ってから慌て手を振り赤面する織己の言葉に雅瑚は笑い返し、やはり赤面しながら後半を続けて口にした。仕切り直す様にコホンと咳払いをしながら足を止めて待てば二人の距離はすぐに縮まって。
「それじゃ、暗くなる前に帰りましょ」
「そうですね」
 二人は夕日の光を前面に受けながら再び歩み始めた。夕日以外のもので顔を赤くしたままで。




イラストレーター名:nakade