●−In The Twilight−
「櫻さん…ダンスのお相手、お願いします」
司姫がそっと櫻に右手を差し出だしダンスに誘うと、それに答える櫻は彼の手に自分の手を重ねた。
たくさんの人がいるホールで少し気後れしていた櫻だが、自分の手から彼の手の温かさが魔法のように感じる。
さっきまで感じていた不安が彼の手の温かさによって消え、安心させてくれる。
ふっと司姫を見上げる櫻、言葉に出して言おうかと思ったけれども恥ずかしいからそれは心の中で呟いておく。
テンポの良いワルツがホールの中に響き渡れば、二人もその中へと入っていく。
櫻と踊るのは初めての司姫。人混みが苦手な彼女を労りながら、ゆっくりと踊り出す。
揺れるキャンドルの灯りの中で、流れる音楽に身体を任せる。
初めのうちは緊張していた櫻の踏むステップは少し硬かったりしたけれども、司姫のリードに合わせて踊り続ければ次第にその緊張も解れてくる。
(「……楽しい……」)
司姫と一緒に踊って、初めて踊ることを楽しいと思った櫻は彼の方を見上げて微笑む。
そんな彼女の仕草ひとつひとつがとても綺麗だとおもう司姫。
(「……綺麗だ……」)
思いは言葉として発せられることはなく、キャンドルの緩い光の中、普段と違った表情や姿を見せる綺麗な彼女の姿をずっと見ていたいと思う。
こんなに踊ることが楽しいと思ったのは初めて。彼と一緒だからそうなのかもしれないけれども、この胸一杯の気持ちを少しでも司姫に伝えたい。けども言葉で伝えるのは少し苦手だから、司姫の方を見上げては楽しそうに小さく微笑む。
「ありがとう」という想いが伝わるように。
それに答える司姫は、内心のドキドキが相手に知られてしまうのが恥ずかしく、困ったような照れ笑いを馬ベル。
互いに伝えたい想いは同じ。
―――――ありがとう。
キャンドルの灯りの下、陰も一緒に踊る。
二人の呼吸が合い、まるでこのホールには二人だけしかいないように感じる。一緒に同じ刻を刻んでいける喜びで胸をいっぱいにし、優しいワルツが二人を包み込む。
彼女が華麗なステップを踏むたびに、彼女の胸にある彼から貰ったムーンストーンのペンダントが揺れていた。
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