●たまには二人で話でもしようか
さっきまでの喧騒が嘘のよう。騒がしかったけど、とても楽しいと思えた時間。帰りに買ってきたココアとケーキ。
自宅の2階。ベランダに出てみる。部屋の電気は消した。目の前に広がるのは一面の星空。
ポケットから取り出したイグニッションカードを見つめる。
見慣れた自分の姿と相棒の姿が描かれている。
いつもと変わらずカードの中の彼は穏やかな表情な様な気がする。
静かな時間が流れゆく。しばらくカードを眺めた後、僕はイグニッションした。
ベランダに二つの影。
彼はしゃべれないし、これまで二人で話なんてしたことなかったけど。でも今日はゆっくりと話がしたいんだ。話したいことがあるんだ。ゆっくりと僕は、言葉を選ぶように隣にいる相棒に語りかける。
「星が綺麗だよ、ナナシ」
いざ話し出すとすると、どこから、何から話せばいいのか困ってしまう。ほんの少し考えた後、僕は彼との出会いの時からの事を話し出した。
君と僕が出会った時の事を覚えているかな。こんな感じの……星が綺麗な夜で。
公園を散歩していたらいつの間にか君がついてきてて。
あの時は凄く驚いた。ふふ、何であんな所に居たのかな。
自然と口調は普段以上にのんびりに思えた。小さな笑いを携えて僕は彼の方を見た。彼もまた僕の方を見ていた。やっぱり彼は穏やかな表情で僕を見ていてくれる気がする。だから僕は彼に笑いかけて話を続ける。
あれから1年と少し……。
友達が沢山出来て。大きな戦争があって。悩んで苦しくなって。
ゴーストや能力者であることが怖くなって。このカードを捨ててしまおうとしたこともあった。
でも友達と、君が居たから頑張ってこれた部分が大きかっただと思う。
素直な心の内。僕はまた隣の彼を見てみた。
いつもと同じように、何が分ってないのかのようにきょとんと僕に向かって首を傾げてる。
じっと僕を見てるその目がとても頼もしい。
「有難うナナシ、メリークリスマス」
僕は彼の方を見てそう告げた後、ベランダの手すりを持って大きく背を伸ばした。
冷めてしまったココアとコンビニのケーキ。ココアを彼の方に差し出して見る。
そこで気がついた。
……あ、くちばしじゃ飲みづらいかなあ。ケーキにしようか。
苺はあげないからね。だめだからね。
そのくちばしじゃ飲みにくいだろうと。苺の乗ったクリスマス仕様のショートケーキひとつを半分こ。
苺もひとつ。
彼のくちばしが苺を攫ってしまないように、苺を指差す僕。
彼を見ると、反対の方向に首を傾げていた。それが何だか嬉しい。
君がいたから僕はここまで来れたんだ。
| |