●戦場でMerry X'mas―やっぱり変わらない俺ら
「こっちだっ」
顎で行く先を示すガウェルズのすぐ後ろを籠幻は走っていた。後ろからは怨嗟の声やうめき声などバラエティ豊富な声が聞こえてくる。
「おまけだぜ」
籠幻の蹴りが倒壊しかかっていた柱の亀裂を蹴飛ばせば崩落した廊下は即席のバリケードと化す。
「またもや聖夜に亡霊諸君とデートとはな。はっはっは、笑えよコンチクショウ」
「……笑えねぇよマジで……なんで今年もお前とセットでこんな聖夜なんだこの野郎……」
その出来の確認もせず、手近な部屋に飛び込んで戸に鍵をかけた籠幻の空笑いに、乱した息を整えながら半眼でガウェルズがぼやく。ゴーストとの戦闘中、相手の数が多すぎて逃げるしか無くなったのだがどうやらデート相手の方々は諦めたのか見失ったのか追撃を断念したらしい。
「だが、美人に追いかけ回されるのは悪い気しないな」
「……その美人とやら身体が半分腐ってただろうに……さてと」
先ほどの声も聞こえないからか徐々に元気の戻ってきた二人は、軽口をたたき合いながらも埃っぽい床から腰を上げる。立ち上がって周囲を見回すとそこは大きな部屋。正確には壁が崩落して二部屋が一部屋になったという感じだったが。
「お」
ガウェルズの目に止まったのはジュースの自販機、走りっぱなしで喉が渇いている二人にとって去年に引き続き都合良く飲み物が調達できそうな気配だ。
「そうも甘くねぇか」
が、ボタンをしても自販機は何の反応も示さない。どうやら電気が止まっているらしい。まぁ、ゴーストが出現したりするよりはマシだが。
「そうでもないぜ」
籠幻は肩を落とすガウェルズに声をかけながらレバーを握っていた。一方が自販機を見つける間にもう1人は配電盤を見つけていたのだ。先ほど蹴飛ばした油缶らしいものの中身が床に流れている事には一向に気づかずに、籠幻はレバーを引いた。
バチバチっと弾ける火花、引火してメラメラと炎上を始める床の油。
「……やっちゃったZE」
「……やっちゃったぜ……じゃねぇえ!?」
籠幻の声に振り向いて一部始終を目撃したガウェルズは大声で喚いた。その声に気づいてゴースト達が再び近づいてくるような気配がしても誰も彼を責められまい。
「「俺達、こんなのばっかりかぁあああ」」
叫び声と硝子の破片と共に飛び出した二人に一歩遅れて炎が噴き出す。雪やガラス片と共に重力の影響を受け始めた二人へ地面が急速に迫りつつあった。
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