●NOёL
空が黄昏色に染まる頃。
いつものスーパーで買い物して、いつものように家へ帰る。
今日もいつもと同じだと思っていたのだが……。
「ごめんなさい。わざわざ運んでもらって」
そう告げるのは京。京の自転車を押しているのは友也。
買い物を終え、スーパーを出るところで、二人は出会ったのだった。
友也は肩をすくめて。
「俺の荷物は少ないから」
今、友也の荷物は、京が持っている。中身は主にカップラーメンである。
それに引き換え、京の荷物は量が多く、長ネギなどの食材がいろいろ入っている。どうやら、京の家の夕食は鍋のようだ。
「こんな食事では身体に悪いですよ」
半透明の袋に入っていても、中身は見える。それを見た京は眉をひそめて、遠慮がちに続ける。
「よかったら晩御飯、食べていきませんか?」
そう言う京を見て、友也は思う。彼女は優しいと。
思えば、部屋にあったグラビアアイドルが表紙の雑誌も、気づかない振りをしてくれていた。
もし、彼女の誘いを受けたのなら、家族が同席する晩御飯となるだろう。
友也は微笑んで首を横に振った。
「遠慮しなくていいのに」
「普段なら甘えるんだけどな」
吹き抜ける風が、会話を途切れさせる。
どうやら、坂道を登りきったらしい。横を見ると、黄昏色に染まる町並みに、少しずつ灯りが灯り始めていた。美しい景色が二人の瞳に飛び込んでくる。
京は長い黒髪を押さえながら、町並みを眺める。
友也も足を止めて、京の隣で町並みを眺めた。あと少しで、ここは夜の闇に染まっていくだろう。
そして、現れるのは人々が生活しているという暖かな灯り。
ふと、友也は気づいた。
「雪だ」
友也が視線を上げると、その頬に冷たい雪がくっついた。ふわふわと空から落ちてくる雪。
「ホワイトクリスマスですね」
その夢心地な京の言葉に友也は。
「独り身には贅沢だな」
飾らない言葉を返した。
雪はまだ降り続く。この調子だと、少し積もるかもしれない。
「京が家で迎えるのは今年が最後かもな。やっぱり野暮は控えるよ」
もう一度、友也はそう告げた。
(「お互いに来年は、別の過ごし方ができるといい」)
友也は心の中でそう願う。
ポケットに隠した美少女ゲーム。それを取り出し、見つめて。
友也はシュールに微笑んだ。
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