●仮装パーティ、その後で…
もう誰も来ないだろう、朽ちた教会。
その教会の中に、淡い光が灯る。
淡い蝋燭の明かりだけが、この場を明るく照らしていた。
明るくといっても、数本の蝋燭が生み出す明かりは、部屋の隅々まで照らすには、まだ足りない。
そんな場所に二人はゆっくりと足を踏み入れた。
(「なんでまた龍と一緒なのかしら? 確か去年も一緒だったわね」)
そして、思い出すのは、自分が言った言葉。
『……来年はお互い、別の相手と、こういう風景を見たいわね』
なのに……。
「今年もまた此処に来ちまったな……去年ここで言った事覚えてるか?」
龍がそう、月亮に話しかける。
(「……何故、今年も龍と一緒なのかしら!?」)
月亮は思わず心の中で呟く。もちろん、去年の台詞もしっかり覚えている。
だからこそ、不愉快な気分になるのだ。
「なんだよ、そんな嫌そうな顔しなくてもいいだろ? 俺は、月と再び此処に来れてうれしいぜ?」
「そうじゃないわ。今年は、お互いに別の相手と過ごすのを競争してたんじゃなくって?」
龍に向かって、月亮は続ける。
「これじゃどっちが罰ゲーム対象なのか、わからないじゃないの?」
「競争なんかしてたっけか? それに、罰ゲームって何の話だよ?」
その答えに月亮は苦笑を浮かべた。
「相手の言うことを1個聞くことよ」
月亮のしようとしていた罰ゲームは、龍の女装。
けれどそれは、既に見てしまった。というより、今、目の前にいる龍は女装中である。
「私からの罰ゲームは後回しにして、龍からの罰ゲームの内容を聞いてあげるわよ。さ、何だっていいから言ってみなさい」
「それじゃあ……二人でこのまま現実逃避して、何処までも堕ちていくっていうのはどうだ?」
「きゃっ!」
そのまま、月亮は龍に押し倒された。
(「いつも振り回されてばかりだからな……こういうのもたまには……」)
そう龍が思っていた矢先に。
「今は『俺』が『男』だろ?」
どんと、押し返された。
今度は月亮が龍の上に立つ。
月亮はしゅるっと、龍の首にかけられたネクタイを解いた。
「観念なさい、地獄に堕としてあげるわ♪」
「って結局、このパターンかよーっ」
馬乗りになる月亮を見上げながら、龍は思う。
(「ま、月のそういうところも含めて好きなんだけどな」)
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