祝詞・勢 & 志衛亭・響

●『Snow Destiny』には程遠い?

 念願の場所を見つけ出したときにはすでに深夜だった。
「おォ、新雪一番乗りだぜ!」
「Wao Fantastic!」
「こういう静かな場所でクリスマスってのもイイよな。なァ志衛亭……」
 目の前には真っ白な細かい雪が降り積もった、見るからにふわふわの新雪。
 嬉しそうに声を上げる勢と響。
 まだ雪は降り続いている。
 ふっと響が空を見上げた。
 …………もしかしたら。
 これはこの雪の上に寝転がって見上げた方が良く見えて、しかも綺麗なんじゃないかと思うが早いか、彼女はなんの躊躇いもなしに雪の上に寝転がった。
「勢クンもどう? ……Come on♪」
「負けてられるか! 俺も隣、邪魔すんぜ!」
 静かな場所でクリスマスもいいよな、なんて言っていた勢が響の方を見れば、彼女は雪野原に寝転がって空を見上げている。
 そんな楽しそうなこと、彼女だけに堪能させてはいけないと自分の方に差し出される響の手に誘われるように、雪野原に寝転がった。

 見上げた空はとても遠くに感じた。
 降ってくる雪はとても近くに感じた。
 すぐ手を伸ばせば触れられるところに、相手はいるのにとても静か。
 雪の降る音でさえ、とても響いている様な気がする。

 背中の雪が絨毯で、上を見上げればどんどん自分にも雪が積もってくるけれども、勢は案外気持ちが良いものだとそのまま身を任せる。
「思った通りね♪ 綺麗でしょ?」
 空を見上げて全身で雪を受け止めている響が、声だけを勢に向ける。
「降り頻る雪の様になりたい……なんてphraseを昔聞いたことがあるのよ。美しい光景として、大事な人の心に残るならば、それでいい……ってことだと思うけど、今なら言いたくなるのがわかる気がする」
 何言ってるんだろ、私……と付け足し少し照れたのかうっすらと頬を赤くした響が勢の方に手を伸ばす。  彼の掌の上に自分の掌を重ねようとして気がついた。

 ……―――――――寝てるし!

 隣に響が居ること、静かで穏やかな時間に安心しきった勢は爆睡モード。
 ささやかな寝息が規則正しく聞こえてくる。
 響の手が乗れば条件反射で握り返してくれるのは嬉しいのだけれども、響は小さく笑うとそのままもう片方の手を勢の頬に向けて伸ばす。
 小さな笑みは爽やかな笑みに変わり、そのまま響は勢の頬を思いっきり引っ張った。
「痛ッてェ! いたたたたなんか顔が痛ェ!」
 突然の痛みにもちろん勢は飛び起きる。何事だと辺りを見渡すと変わらず隣にいる響が目に入る。
「……あ、おはよう、志衛亭。ん? 顔赤くねェ? 風邪か!? 俺のマフラーで良けりゃ貸すから、巻いとけ!」
 自分を見る響の頬が赤い事に気がつくと、勢は首に巻いていたマフラーを外し、「どっか店入って暖かいもんでも飲もうぜ」と言いながら響の方へと手を差し出す。

「来年もヨロシクな……響」
 立ち上がった響に伝える勢だったが、彼女の顔を見ればさっきの言葉は聞こえていたなんて言えないなと、心の中で呟いた。




イラストレーター名:瞑丸イヌチヨ