黒楼・斬夜 & 風神・雅輝

●誓いの場所

 街のに流れるクリスマスソングも聞こえなくなって久しく、喧騒の音さえもなく、ただ聞こえるのは寄せては返す波の音のみ。
「寒い……っ!」
 白く曇った息と共に口から言葉をこぼして斬夜は身体を強張らせる。街を離れ海へ向かう道、風を遮る建物も減り雪をのせた寒風は容赦なく斬夜達に吹き付けてくる。
「冬だからしゃーねーわな」
 言葉と共にその冷たさが片手分だけ消え去ったのは雅輝がぎゅっと手を握ってくれたから。刺すような寒さと交代した温もりが斬夜の手を包む。少しだけ寒さの和らいだ道中は二人だけで、雅輝の嫌う人混みとも無縁だった。
「わぁ、綺麗……」
 やがて視界が完全に開けて目の前に飛び込んでくるのは遠く離れた町の夜景に輝く海。周囲が暗い為に夜景はいっそう綺麗で、水面に輝きを写し取る海もまた美しい。
「う、うう……寒い」
 そんな綺麗な風景に目を輝かせた斬夜を我に返させたのは海を渡って吹き付けてくる冷たい潮風。
「へ?」
 僅かな間だけ止まっていた身体の震えがぶり返し始めた斬夜の身体が急に引っぱられ、僅かな衝撃を感じたと思った瞬間、肩と半身に温もりが伝わって来た。
「ああ、ありがとう」
 その原因が自身を雅輝が引き寄せて抱きしめた事によるものだと気がついて、斬夜は頬を染めつつも、雅輝の胸へとしがみつく。全てはそう、寒さのせいだ。
「斬夜……」
 優しげな声で声で呼ばれた気がして斬夜が顔を上げれば、笑みを浮かべた雅輝の顔が近づいてきて唇が、触れて行く。

「メリークリスマス……斬夜……」
「うん、メリークリスマス……雅輝」
 離れた唇が耳元でぼそっと呟く台詞に斬夜は微笑みを返して、赤く染まった顔を隠すように誤魔化すように雅輝の胸へ埋めた。
「……いい場所に連れてきてくれてありがとっ」
 抱擁は長く、顔を埋めたまま口にした礼の言葉へ答えるように雅輝の手が頭に触れ、髪を軽くかき回してわしゃと音を立てる。
「人だらけな街のイルミネーションよりも、こっちのがいいだろ?来年も絶対に連れてきてやるぜ」
 顔を上げない恋人の態度に顔が赤いことなど既に見越していたのか雅輝は口もとを綻ばせそう言った。

「……約束だよ? 破ったら殴ってやるんだから」
 ようやく顔を上げ、悪戯っぽい笑みを浮かべる斬夜に余裕の笑みを浮かべた雅輝は「上等だぜ」と答える。
 遠くの船のものかプォーという音が聞こえてきて、頭に置いていた雅輝の手が放れ、斬夜の手を優しく握る。キラキラと輝く船を挟んだ夜空と海ごと眺めながら、二人の時間は過ぎて行く。いつの間にか寒さも気にならなくなっていた。




イラストレーター名:八坂シギ