クレール・アンリ & 月乃葉・久真

●The Sweetest Escape

 高層ビルが立ち並ぶ中。
 そのソリは空中で疾走していた。
 後ろからは行く筋のレーザーが放たれる。
 それを巧みにかわしていくのは、久真の運転するソリであった。
 普通のソリではない。
 よく見れば、辺りもいつもの風景とはまるで違う。
 よく映画でみる遥か未来の世界……そう、SFの世界のようだ。
 追ってくる敵のメカも宙に浮かび、久真の運転するソリを狙っている。
 ソリを操る久真の隣に、クレールはいた。
「全く、誰がこんなことをしたんだか……」
 べりっとその白ひげを剥ぎ取りながら、久真は呟く。
「久真……来てくれたのね」
「当たり前だろ? おっとっ!」
 追っ手の手は休むことなく、攻撃してくる。
 その都度、久真は巧みにソリを動かし、敵の弾をかわしていく。かわりに周りのものが壊れていくのが見えた。
 ほんの数時間前。クレールは、もう少しで、知らない男に売られてしまうところだった。
 そこを、悪のサンタである久真が現れ、クレールを奪い、逃げるような形で助けられたのだ。
 久真に助けられた事が、クレールにとって一番、嬉しかった。
「俺が一番、クレールを欲しいと思ってる。他のヤツに渡してたまるかよっ!」
 真っ直ぐな瞳。
 その瞳を、どこかで見たような気がする……。
 けれど、それよりも心の嬉しさは止められない、止まらない。
 クレールは久真を、思い切り抱きしめて、飛び切り明るい声で叫んだ。
「嬉しい! 私も……私にもあなたが必要なの。愛しているわ、誰よりも、心から!」
 それを聞いた久真もまた、嬉しそうに笑顔を浮かべて……。

「あっ……」
 気がつけば、そこは自分の部屋。
 側には久真がくれたクリスマスプレゼントのハートのピアスが見えた。
 少しゆがんだ、ハートの形。
「夢……なのね……」
 妙にリアルで、現実感の無い世界だったというのに……。
 クレールはそっと起き上がり、カーテンを開いた。
 差し込むのは眩しい朝日。
「決めた」
 夢の中のように上手くいかなくても、今日こそはきっと。
 貰ったピアスを耳につけ、クレールは飛び出すように、自分の部屋を後にした。
 自分の想いを、大切な彼に伝えるために。




イラストレーター名:マハラジャ裕子