●お気に入りの場所
結社のクリスマスパーティーを抜け出した悟とみずる。
「ちょっと行きたい所があるんです……」
「ちょ! 先輩、その格好でバイク乗るんか!?」
「……片手だけでも結構運転できるモノですよ? ……がんばれば」
みずるからヘルメットを渡された悟は、ミニスカートにブーツ姿でバイクを運転するという彼女の格好を見て目を丸くしたが、普段と変わらない口調でみずるはさらりと答えた。
「ちょっと忙しくなりそうなんで、スカート抑えてて下さい!」
それでもやっぱり、片手で最後まで運転するというのはなかなかムリがあり、後半は後ろに座っている悟がみずるのスカートを押さえていたとか。
みずるが行きたいところといったのは、街の夜景が綺麗に見える高台。
「お気に入りの場所なんで……一緒に来られたらって……」
みずるがほんのり頬を赤くして、悟を見た後、眼下に広がる夜景に視線を向ける。それに悟は彼女の側に行き、体を寄せ合って静かに夜景を眺める。
「相澤悟はーみずる先輩をー一生大事にすることを誓いますー!!」
寄り添っていた体が離れて、悟はかしこまって咳払いをしたとたん、大きな声で青年の主張の様に夜景に向かって叫んだ。
「……そ、そんなことここで叫ばないでください!」
それにびっくりしたのはみずる。何が起こったのか分かるけれども、軽いパニック。顔を真っ赤にしてひとりあたふたとしてしまう。
「でも……ありがとうございます、嬉しいです」
真っ直ぐな悟の視線を見ると<、頬を赤くしたまま俯き加減で呟いた。
その後も二人は飽きるまで夜景を見ていた。
「悟……くん、お腹空いてませんか?」
「ん、何か食べて帰る?」
まだ少しなれない呼び方で、悟の事をよぶみずるの言葉に提案する悟。それならとっておきのお店があると、みずるが言葉を続けていく。
「私がたまに行くお店ありますけど、行ってみますか?」
「先輩と一緒ならどこでもええで♪」
みずるの申し出に嬉しそうに頷く悟。
そうして二人は夜景に背を向けて歩き出す。
来たときと同じように、またバイクに乗って今度はみずるがたまに行くというお店に向かって。
そのお店がラーメンの屋台だったと、悟が知るのはもう少しだけ後のこと。
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