楡崎・洋子 & 梅咲・一花

●「私とつき合いなさい!」「…どこに?」orz

 クリスマスというものに、洋子はあまり関心がありませんでした。
 下手したら、普段と同じく実験室で1日過ごしていたことでしょう。
 去年までは。

「恋人達の聖夜、ね……」
 洋子は片思いの相手である、一花のことを思いながら、ため息をついていました。
 窓の外の曇り空を眺めたりするその様子は、普段の性格を知らなければ、恋する乙女と呼べそうでした。
 見た目は大人の女性のように見えますが、自覚しての恋愛は、実は今回が初めて。
 そう、洋子にとって、これは初恋だったのです。
 それよりも、今はクリスマスのことでいっぱいです。
「世間のクリスマスに流れる形で……」
 洋子は想像してみました。
 片思いの一人の女性。クリスマスに乗じて、相手を誘います。
 そして、遠まわしにこう言うのです。
「クリスマスを一緒に過ごしたいわ」
 ついでに毎年ずっととか、永遠にとかつければ、もっと効果的かもしれません。
 きっと相手はこういうでしょう。
「嬉しいよ。実は俺もそう思っていたんだ。洋子と一緒にってね……」
「ああ、一花! 嬉しい!」
 そのまま抱きしめられて………。
(「いや。ない、ないから」)
 洋子は現実に戻りました。
 まだそんなことはありません。そう、これからやるのです。
「でも、本当にうまくいったら……」
 また想像してみました。今度はばっちり口付けまでいきました。
(「い、いや。それもない、ないから」)
 またもや理性が働き、現実に戻って来れました。
 それを何度も何度も繰り返し、一花を誘うシミュレーションを行います。
 何度目でしょうか。
 現実から戻ってくるはずの洋子は、戻ってきませんでした。
「こ、こうなったら……」
 ちょっと理性が疲れてしまったようです。現実に戻ってくる前に体が動きました。

 格好いいドレスを着て、クリスマスにちなんだ服も着て、可愛らしいアクセサリーもつけていきました。後は……。

 勢い良く、扉が開かれました。
 一花は慣れているのでしょうか、落ち着いた様子でその扉の先を見ていました。
「梅咲……私と付き合いなさい!」
 いつもよりもかなり気合の入った洋子が、やってきたのです。
 というか、先ほどの入念なシミュレーションはどこかに飛んでいってしまったようです。
 かなりの特攻、直球です。そんな洋子に一花はというと。
「……どこに?」

 その後の事は洋子は覚えていません。
 ただ、とても悲しかったこと、寂しかった事は覚えているようです。
 そして、一花と一緒にいられなかったことも……。
 ですが、いつかきっと、来年こそは……。
 そう洋子は、枕をぬらしながら、願うのでした。




イラストレーター名:土方