小早川・奈々 & 御桜・深柑

●聖なる夜の2人きりの誓い

 サクサクと凍った雪を踏みしめる二組の足音のみが響く。頭上からはヒラヒラと雪が舞い降りていて、見渡す限りの銀世界の中、二人の行く先に明かりを灯した教会が静かに聳えている。周囲に民家も無い寂れた教会は、深夜であるという時間帯も手伝ってか、ただ静かだった。

「御桜先輩?」
 冷たい両開きの扉の前で繋いでいた手を放した先輩にきょとんとする奈々の前で、深柑は用意していたキャンドルを取り出す。
「火を」
「あ、はい」
 キャンドルを目にしてようやく思い至ったのか、奈々が取り出したマッチは、次の瞬間、箱の横面に擦れ先端に弱々しい火を付けた。
「このキャンドルの火が、誓いの火。キャンドルを灯しきれば、わたしたちの誓いは現実になるって言われているわ」
 二人で、キャンドルへと移された火が揺らめきながら深柑の顔を照らす。白く曇った息を吐きながら、触れれば痛い程冷えた取っ手へ開いた方の手を伸ばし、二人は戸を開けた。教会は無人であるにもかかわらず温かな光を灯していて、扉が開いて吹き込んだ風雪に入り口よりの火が揺らめいたものの、火は消えることなく内部を照らしている。靴音をたて中央の道を進み、二人が足を止めたのは祭壇の前。

「奈々の誓いは、深柑の胸に」
 祭壇のキャンドルに二人で火を移して、それぞれが跪いて小さな声で呟くのは誓いの言葉。ただ、最後の一句だけは普通にと言う事なのか、相手にも聞こえる大きさで口にした言葉を遮るように深柑は奈々の方へと手を伸ばす。
「Eiprilよ、Eipril・ Mahilyow・Bilvord。誓いなんだから、本名でやらなきゃね」
 そう訂正すると、深柑は驚いた表情の奈々にウィンクする。

「奈々の誓いは、Eiprilの胸に」
「Eiprilの誓いは、は奈々の胸に」
 名の部分を言い直して、再開された誓いは立てられ、あとはただキャンドルの炎が消えるのをひたすらに待つ。時折外を吹く風の音が聞こえて、窓が微かに鳴るが、火は消えず。

「これからもよろしくね、奈々」
「よろしく、お願いしますっ」
 どれほど時間がたったか、ようやく火の消えたキャンドルの前でEiprilが輝くような笑顔声をかければ、奈々は涙ぐみながら頷いた。




イラストレーター名:遊无