式守・澪音 & 小早川・奈々

●聖夜の調べ

「乾杯〜♪」
「メリークリスマース♪」
 グラスが打ち鳴らされる音が響いてあちこちで歓声や笑い声があがる。部室で繰り広げられる話題は主に返ってきたテストの事であったりするあたり、学生らしいと言えば学生らしい。
「前回に比べてかなり下がりましたね」
 澪音がポツリともらしたのもそんな周囲に合わせた内容から始まって、部屋に飾られていたツリーの飾り付けについてとかこのあと行う「本番」についてなど徐々に話を広げて行く。
「奈々ちゃん、大丈夫ですか?」
 そんな中、澪音が奈々に尋ねたのはもちろんこのあとの事についてで。
「が、頑張りますっ」
 奈々は少し引きつりつつも首を縦に振る。脳裏に甦る物があるとしたら「この日のために」と少しずつ積み重ねてきた練習の光景だろうか。

「そろそろ始めましょうか?」
 そして、来るべくして時は来たりて。澪音と奈々が座るのは黒い横長の椅子。蓋が開けられ、埃よけのフエルトもとり払われた鍵盤の上に4つの手が並ぶ。
「では、行きましょう」
 合図と共に4つの手が踊り始める。出だしはぴったり。
「あぁ」
 ただ、進むに連れて時折遅れがちになる奈々に合わせるかのように澪音のペースも落ちて。いや、一生懸命な奈々の表情を見て微笑んでいるあたり敢えてペースを落としているのだろう。フォローのかいもあってか二人の連弾は大きな失敗もなく無事終了する。
「ふー」
 安堵したのか大きく息を吐き出した奈々が何気なく横を向けば、自分を眺めながら微笑む澪音の姿が。
「頑張りましたね」
「えへへ」
 照れ笑いを浮かべる奈々へ澪音は再び言葉を続けた。 「70点、というところでしょうか? 100点目指して頑張りましょう?」
「え?」
 微笑みと共に投げかけられた言葉に奈々は一瞬固まって。
「えっ?」  澪音の手が再び鍵盤の上に戻った事で思わずその手を見て。
「ひゃ、100点取れるまで、おあずけですかっ?」
 慌ててピアノに向かった奈々は再び鍵盤の上で手を踊らせ始めた。




イラストレーター名:ハルカ零