●ふたりで初の……
街はなんだかおもちゃ箱をひっくりかえしたよう。
街の中は沢山のイルミネーション。
街角ではサンタの格好をしたお姉さんが売るケーキ。
また違う場所では、サラリーマン相手に居酒屋のお兄ちゃんが呼び込みをしている。
ファーストフード店やレストランからは香ばしいチキンの香り。
その中を行く幸せそうなカップル一組。
まだ手を繋いでいるだけで、十分に幸せを感じることが出来る。
その互いの指にきらりと光るお揃いの指輪。
冷たい空気なのに、何故だかとても温かい。
ほんの少し背伸びして、イタリアンレストランに予約をした。
今日は特別な日だから。
「うわ、これすっごく美味いっ!」
「これも美味いよ、浩之」
美味しい料理に自然と会話も弾み、楽しい時間もあっという間に流れゆく。
デザートが運ばれて落ち着いたとき、二人は用意していたペアリングを交換した。
何だかとても心が満たされていくのが分る。
もの凄く照れてしまうけど、とても嬉しい。それはきっと二人とも同じで顔を見合わせては笑い合う。
そうして店から出た街は、おもちゃ箱をひっくり返したようだった。
「寒くない?」
「ん、平気だけど……あ、やっぱり貸して」
浩之のしている赤と白のボーダーのマフラーを自分の首にも巻いてみせる薔薇。楽しげな様子の彼女をエスコートするようにゆっくりと歩く浩之。
繋いでいた手が離れてしまえば、またどちらからともなく手を差し出し。つなぎ合う。
けれど時折、薔薇が繋いだ手を引っ張ったりするのはご愛敬。
絡まる指と指。
二人の距離が、ほんの少し縮まったような気がする。
その距離をもう少し縮めたい。
なんだか次第に落ち着きのないような、ちょっとそわそわしている浩之がチラチラと気にする。
そうして思わず見てしまうのは薔薇の唇。
できるのならキスしたい。
以前チャレンジしたときには、邪魔が入ってしまった。けど今日なら成功しそうな気がするから。
今日は特別な日。
それがもっと特別になるように。
少年の思惑が成功したのかは、二人だけの秘密。
でもただ絡め合う指先からは絶えず幸せを感じていた。
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