●ふたりのクリスマス 〜いつもの幸せ〜
ほう、と息を吐きだせば白く曇って、まるで小さな雲のように漂う。息がまるで列車のように連なってなびくのは二人が移動をしているから。
「やっぱりクリスマスは夜だよね!」
「ええ。イルミネーションが綺麗です。……今度はゆっくりと見れてよかったですね」
勝子が手を引きながら進めば、菖爬は微笑みを浮かべながら後ろを付いてくる。二人の胸を過ぎるのは過去の戦いとそれに付与する記憶。
「神戸ルミナリエも綺麗だったかもしれませんが、このツリーもまわりのイルミネーションも負けてませんよ」
「うん。怪我もすぐに良くなったし……」
励ます言葉に相づちを返し「菖爬くんが看病してくれたおかげだよ」と笑みを浮かべた勝子に、微笑み返す菖爬。
「ふふ」
つられたように勝子も笑みを返して笑みの連鎖はお互いを見つめたまま続いて行く。
「っくしゅん!!」
その連鎖を途切れさせたのは、夜の校庭に吹き込む寒風か、はたまた冷えた大気か。気がつけば身体が冷えていたのだろう冷たい空気は本人が思うよりも多く身体の熱を奪って行くものだ。
「大丈夫ですか? やっぱり外は寒すぎましたね……戻りますか?」
「ヤダ。もっと見るもん」
心配そうな瞳を向けられながらも、勝子は首を横に振り腕組みをして言外にもその場を動かないという意思を示してみせる。菖爬は少し考えて自分の首にかけられていたマフラーを半分ほど解いた。
「え?」
「こうすれば、一緒にぬくぬくです」
動かずただツリーだけを見ていた勝子の首に何かが触れて、振り向けばちょうど自身の首に菖爬が解いたマフラーをかけているところだった。伝わるのは彼からマフラーへと移った温もり。
「ありがとう♪」
「いえいえ」
礼の言葉と共に再び笑みを返せば、菖爬も笑みを返してくれる。まるでお互いの想いまでマフラーが伝えてくれているようで、自然と笑みがこぼれ、再開された「にこにこ合戦」はまだまだ続く。それは、舞い踊る雪の冷たさも、吹き付ける風の冷たさも気にならないほどに温かく楽しい時間だった。
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