ヴィンセント・ウリエル & 柏木・詠美

●Merry Christmas & Happy Birthday

 クリスマスの夜、ヴィンセントの家ではパーティの準備が進められていた。
 詠美が暖炉の上にツリーを飾り、テーブルにクロスを敷く。そこに、ヴィンセントが仕上げた料理を運び込む。何種類かの野菜を和えたサラダに、色々な具を挟み込んだサンドイッチ。からっと焼き上げたフライドチキンとフライドポテトを皿に並べ、中央には生クリームと苺でデコレーションしたクリスマスケーキを置く。
 最後に、ナイフとフォーク、それにグラスを並べれば、できあがり。
「それじゃあ、始めましょうか」
 ヴィンセントは暖炉に炎を灯した。
 ゆらゆら揺れる暖かい炎は、じんわりと室内を暖めて、そして優しく照らしてくれる。
「はい、それじゃあグラス持って?」
 一足先に座った詠美がヴィンセントのグラスにジュースを注ぐ。2人でグラスを鳴らしながら、交わす言葉は「メリー・クリスマス」。
「それから……お誕生日おめでとう」
 そのまま詠美は、くすっと笑いながらそう続けた。
 今日、12月25日は、クリスマスの他に、もう1つ大切な意味を持っている。
 それは、ヴィンセントの誕生日。
「あ……ありがとうございます」
 最初、詠美からのお祝いに驚きを見せたヴィンセントだったが、それも一瞬のこと。すぐに嬉しそうに照れ笑いを浮かべた。

 何気ない日々の出来事を語らい合いながら、あらかた料理を食べ尽くした2人は、暖炉の傍のソファへと移動していた。 
 ふと会話が途切れれば、パチパチと火が爆ぜる微かな音だけが室内に響く。
 その沈黙は、2人にとって決して不快なものではないけれど、でも、今は言葉が途切れたままにさせておくのは、少し惜しくて。
「――そうそう。ちゃーんとプレゼントも用意してあるのよ」
「私もですよ」
 お互いに取り出したのは、相手のために用意したプレゼント。お互いからお互いへ、交換するように渡し合う。
「開けて構いませんか?」
「ええ、勿論」
 ヴィンセントが開いた包みの中身は、猫のイラストが描かれたエプロンだった。一方、詠美が開けた箱の中からは、ブランド物のサングラスが顔を覗かせる。
 どちらも、互いに似合いのプレゼントで、2人はどちらからともなく笑みをこぼす。
「大切にするわね」
「ええ、私も」
 そのままソファに隣り合いながら、ふと無言で見つめ合う2人。
 時間は、とても穏やかに過ぎていく。
「……来年のクリスマスも、一緒に過ごしたいですね」
「そうねぇ……ふふっ、どうしようかしら?」
 ヴィンセントの言葉に、そうくすくすと笑う詠美。その様子に、ヴィンセントもまた笑みを浮かべると、再びグラスにドリンクを注いで。2人は小さく乾杯しながら、それを飲む。

 こんな風に一緒の時間を過ごしたい。
 願わくば、その先の未来も、ずっと……。
 言葉には出さないけれど、2人は同じ想いを抱きながら、クリスマスの夜を過ごすのだった。




イラストレーター名:辰喜真希