●甘い悪戯
2人で、クリスマス一色に染まる街を冷やかしに行った帰り。
いつものように、並んで歩きながらいろいろなことを話していた。
とりとめのない日常のことを、どんな些細な出来事も丁寧になぞるように。
どんなに話しても、二人の話の種は尽きない。
ふわりと時経の目の前で、ふわふわと、雪が降ってきた。
ひとつ、ふたつ、そしていつしか、雪はたくさんへ。
(「そういえば、今朝見た予報は、まさかの雪だったような気がする」)
時経は今朝見たニュースを思い出し、身震いした。
「雪が降ってきたな、さっさと帰るぞ」
「あ、ああ」
駆け出す時経の後を追うように、敬一もついてくる。
と、突然、時経の足が止まった。
「先輩?」
「敬一、こっち」
時経の声に従い、敬一は素直に近寄ってくる。
そして、時経は敬一のマフラーをさっと解いた。
「えっ!?」
唖然としている敬一を気にしていないのか、そのまま解いたマフラーを自分の首に巻きつける。
「こうすれば暖かい」
一つのマフラーを共有したがゆえに、二人の顔は額が付くほど間近に迫った。
「敬一は美人だな」
「………なっ」
その間、数十秒。照れるわ、驚くわで顔を赤くしている敬一の様子を、時経は悪戯っぽい表情を浮かべながら、面白そうに眺めていた。
(「なんでこの人はこういうことを平然とやるんだ」)
理解ができない。
敬一はたまらず、時経の首にあるマフラーに手を伸ばした。
「やめろ、九業先輩。恥ずかしい」
奪い返そうとするものの。
「ちょっとしたスキンシップの一つだ」
たまには、こういうのもいいだろうと言いたげに、時経は、伸ばす敬一の手を避けていく。
「普通にしててくれ、普通に」
結局、マフラーは敬一の首に収まった。
特別なことなんて、なくてもいい。
来年もこうして、二人でじゃれあえれば。
時経は後ろからついてくる敬一を、ちらりと見ながら、駆けていくのであった。
| |