●淡雪聖夜
「あ! アスカ見て見て、雪降ってる雪!」
ふと窓の外の光景に気付いて、敬介は目を輝かせた。
暗い闇の夜の中に、はらはらと舞う白い輝き。ホワイトクリスマスだ! と窓に駆け寄ると、敬介は舞い降りてくる雪を眺める。
「……雪、好きなのか?」
「うんっ!」
スゲー! と連呼する敬介の、すぐ後ろからアスカが問えば、敬介は大きく頷き返す。そのまま、綺麗だな〜と雪に見惚れながら、敬介は、明日の朝になったら積もったりするだろうかと、胸をわくわくさせる。
敬介は、すっかり雪に夢中になっていた。
だから気付いていなかった。
アスカが、すぐ後ろまで近付いていること。近付いて……敬介に腕を伸ばしたことに。
「……え?」
だから。
気付いた時には、両手首をアスカに掴まれて、そのまま、窓に押し付けられていた。
その視界に映るのは、どこか愉しげに笑うアスカの顔だけ。
「……な、何?」
戸惑いを浮かべて訊く敬介に、アスカはそっと「キスしたい」と囁いた。
「な……!」
聞いた瞬間、カッと敬介の顔が赤く染まる。
(「な、何バカ言ってるんだ!?」)
そんな恥ずかしい真似できるか。
そうアスカを見上げる敬介だが、そう言って引き下がるような相手ではない。
「いいじゃん二人っきりだし。な? 一回だけ」
「なっ……!?」
(「そういう問題じゃない!」)
アスカの視線に、ますます赤くなりながら反抗する敬介だが、アスカがそれに怯む様子は無く。
結局、いつまでも永遠に続くかと思われた問答に根負けしたのは、敬介の方だった。
「い……1回、だけだからなっ!」
真っ赤になったまま、照れ隠しのように大きな声で言い放ちながら、目を閉じる敬介。
ぎゅっと固く閉じた目の向こうに、笑うアスカの顔が見えるような気が、した。
(「……うう」)
ああ、でも。
それを振り払うことも、逃げることも、できない……しない。
それが、きっと、自分の……弱み。
そっと、手首にかかる力が弱まって。
吐息が絡み合って。
触れ合う唇――重なり合う。
やがて離れた二人の視界には、うっすらと雪が積もった、窓の外の光景があった……。
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