武田・昌弘 & 皇海・桜

●重なる想い

 昌弘が桜を誘って向かうのは、校内の静かな場所。
 さっきまでの賑やかなパーティー会場とは違い、ここはとても静かだった。
 歩きながら、心臓が躍るのが良く分かる桜は、きゅうと自分の胸元を掴んだ。

「……桜ちゃんに、ずっと言いたかったことがあるんだ」
 決心した。もう迷わない。今まで伝えるべきかどうするかもの凄く迷ったから、もう迷わない。
 なぜなら心の中に閉じこめておくのが限界だから。
 一度はっきりさせないと後悔することもわかっているから。
 昌弘は深呼吸をして、真っ直ぐに自信を持って想いを告げる。
「僕……俺は、桜ちゃんの事が好きだ。ただの好き、じゃない。君は、誰よりも大切な存在」
 彼と一緒に居られる日はいつも特別の日になった。
 だけど今日は特別の中の、特別な日。
 それはクリスマスだからじゃない。
 彼と自分の想いが同じだと分かっている。分かっていた。それなのにどうして今までお互いに伝えなかったのだろう。
 どうして押しとどめて居たのだろう。
 彼の嬉しい言葉。胸を掴んでいた手がきゅうと更にきつく衣服を掴んでしまう。
 嬉しいのに、こんなにも言葉が胸を締め付けるのに。
「……言葉にするのが、なんだか恐い……」
 思わず俯いてしまう。
 ただそれだけの言葉だったけれど、昌弘には解ったのか、両手を伸ばし彼女の体を捕まえた。
 ふわりと動いた自分の体。気がついたときには、昌弘の腕の中。
 桜は自分の胸を掴んでいた手をそこから離し、彼の背に回ししっかりと抱きしめる。
 しっかりと彼の体を抱きしめて、抱きしめて。この好きだという気持ちを彼に伝えたい。
「……それでさ、風は冷たいけど……中に戻るよりは、こうしてる方が暖かいと思うんだ。だから、もうしばらくこのままでいいかな?」
「しばらくじゃなくて、ずっとこのままが良い……」
 抱きしめ、抱きしめられて交わす言葉。
 桜の言葉を聞いて、昌弘は彼女の体を抱き直し、更にぎゅっと抱きしめる。
 もう離さないと言うかのように。

 いつまでも抱きしめていたい。
 いつでも抱きしめあいたい。
 けれどもいつでも抱きしめられないから、貴重なこの時間を大事にする。 
 重なった想いは、もう離れない。




イラストレーター名:ネム