●【押し倒したい5秒前】
雲雀と瑚純は、こたつの中でぬくぬくと温まりながら、一緒にクリスマスを過ごしていた。
今日の出来事や学園での生活についてなどの他愛の無い話に花を咲かせながら、切り分けたケーキを口に運ぶ。
2人は、楽しく流れているクリスマスの時間を満喫していた。
「やっぱり、クリスマスケーキといえば、ショートケーキだよねー♪」
実に美味しそうにケーキを食べながら、瑚純はうっとりとした顔でそう言った。
赤い苺は甘酸っぱくて。それに絡まる生クリームが、絶妙な甘さと濃厚さのハーモニーを奏でて……。
し・あ・わ・せ♪
そんな瑚純の隣で、雲雀も何食わぬ顔でケーキを食べる。でも、彼は瑚純のように心の底からケーキばかりを楽しんでいる訳ではなかった。何故なら、彼の心の中はケーキ以外の物で埋めつくされていたから。
それは、瑚純のこと。
ふと、どこか邪な妄想が思い浮かんできたら、次第に頭の中は、それ一色に染まっていく。
ちらりと瑚純に視線をやれば、それはどんどん加速して。彼女のあらぬ姿まで思い浮かべてしまいながら、でも、そんなことを考えているだなんて事は微塵も表に出さず、雲雀は何食わぬ顔でコーヒーを一口。
「はい、ひばりんあーん♪」
そんな雲雀の心の内を、気付いているのかいないのか。瑚純はケーキをフォークで切り分けると、雲雀の方に差し出した。
「……今回だけ、もらってやる」
その無邪気さに、仕方がないとばかりに返される雲雀の言葉。
なんだか、その『もらってやる』という言葉には、凄く危険そうなニュアンスが含まれていたような気もするが、瑚純は何も気付かないで、雲雀の口にフォークを運んでいく。
同じ1つのこたつの中で、すぐ隣には魅力的な彼女の姿。
頭の中は、もう破裂しそうな程に埋め尽くされていて……。
果たして、雲雀は瑚純を押し倒してしまったのか?
それとも瑚純はそのまま、何も知らずにケーキを食べ終わることが出来たのか?
2人が、その後どんなクリスマスを迎えたのかは……2人だけしか知らない。
だって今日は、2人だけのクリスマスだから。
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