神代・刃 & ジェラール・ムラサメ

●checkmate

 暖かい部屋から見える窓の外。
「綺麗ですね……」
 温かい紅茶をすすりながら、刃は優雅に外を眺めていた。
 ことりと紅茶をテーブルに置く。
 テーブルには、紅茶の他にチェス盤が置かれていた。
「うーむ……」
 刃の目の前には、長い髪をかきあげながら、次の手を悩むジェラールの姿が。
 今、二人はチェスで勝負をしている。
 全勝している刃。それに対抗するのは全敗のジェラール。
(「もう、たかが次の手ひとつ決めるのに、何分悩んでるんでしょう、この人は」)
 刃は瞳を細めてジェラールを見つめる。
「ねえ、もうそろそろ終わりに……」
「……いや、まだだ。まだ終わらん!」
「ですが、早く寝ないと、サンタ様がお見えになりませんよ」
 そんな刃の言葉はジェラールには届かなくて。
 刃はふうっとため息をついて、ジェラールとまたチェスを続ける。
 もう一度、最初から。
(「わざと負けてあげる、なんて不誠実な事はできませんが……。ああ、眠気で思考力が落ちれば流石に負けるかもしれません」)
 眠そうに瞬きしながら、刃はコマを動かした。

 頭脳戦はこいつの得意分野だ。
 だが、一勝もせずに引き下がるなんて、漢の沽券に関わる!
 ……なんてのは、ただの建前。
 ジェラールにとって、連敗は関係なかった。本当は勝ち負けなんてのも二の次。
 心を許せる者と一緒に夜を過ごす、それ以上の幸せはなかった。
(「俺が勝負を諦めたら、お前さんは早々と寝ちまうんだろう?」)
 ことっと、ジェラールがコマを置いた。
 どうやら、相手も悩むらしく考え込んでいる様子。
(「なら俺は諦めない、連敗記録の一つや二つ、増えたところで構うものか」)
 そう、今夜は眠らせな……。
「ああ、また詰んだか。もう一戦!」
「またですか」
「いいだろ? 時間はまだあるんだからな」
 もう一戦だけですよと言いながらも、何戦したことやら。
 どうやら、この勝負……まだまだ続きそうである。




イラストレーター名:上條建