●お祝いの優先順位
イルミネーションが照らす街中を二人は走る。
「早くしないと閉まっちゃうよー」
正確には疾走する一人に引っ張られる形で二人は街を駆けている。
しかし、涼にとっては動く時計の針が、ゆっくりと締まり行く店のシャッターのように思えて、焦らずにはいられなかった。
「先輩……! 何処に、行くのですか……」
そんな涼を我に返らせたのは、雪希が呼吸を乱しながら、途切れ途切れに口にした疑問の言葉。
「あ、そういえばどこに行くか言ってなかったや。ゴメンゴメン」
振り向いて若干速力は落ちるが、足は止めずに謝る涼。
「これから、めちゃウマなケーキ屋さんにいくんだよ」
とっても美味しいケーキがいっぱいあって、すっごくオススメなんだよと、説明する。
ケーキとその味を思い出したのか、涼の瞳はきらきらと輝いている様子。
どうやら、とても美味しいケーキの場所のようだ。
それにもう一つ付け加える。
「今日は御堂ちゃんの誕生日だしね。一緒にお祝いしよ!」
涼はそういって、振り返り微笑んだ。
「折角のクリスマスですのに、私に時間をとっていて良いのでしょうか……?」
驚きの表情を浮かべた雪希が思わず尋ねると、先を走る先輩は相変わらず足を止めないままで振り向く。
「だってラブラブするような人もいないしー。……って言わせないでよ、悲しくなるから」
返事を返しながら、現実に気づいて涼は頬を膨らませた。
もちろん本気で怒っている訳ではない。
「す、すみません」
慌てて謝る雪希に、涼は気にしない、と手をヒラヒラ振る。
「あたしには、知らないおっちゃんの誕生日より、御堂ちゃんの誕生日の方が大事だし!」
そういって涼は、再び前を向いた。
涼のその優しい言葉に、雪希はほっとした様子で、その表情を緩めた。
花が綻ぶように、ふんわりと笑みを浮かべて。
「ありがとう、ございます……」
前を走る背に向けて、そっと感謝の言葉をかける。
「誕生日おめでと! ついでにメリークリスマス!」
と、かけられた言葉を圧倒するような大きさで、祝福の言葉が返ってきた。
「誕生日おめでと! ついでにメリークリスマス!」
繰り返される言葉に、すれ違う通行人が振り向いても気にならなくて。
なんだかくすぐったい気持ちになってくる。
「メリークリスマス……です、相楽先輩」
雪希は声をかける優しい先輩へと。
| |