●一世一代の告白――ただし、恋には程遠く
寒い夜だった。時折駆け抜けて行く寒風が肩で切り揃えた紫紺の髪を踊らせ、襟元で1つに束ねた鷹眞の髪を弄び、二人の傍に立つクリスマスツリーの枝を揺らしてゆく。
「……今、何て?」
顔をあげ、向き直った鷹眞の眼鏡に隼瀬の顔が映る。切なそうで、先の見えない道を進むような不安とそれでもあえて進むと言う決意の両方を宿したような瞳と表情は真っ直ぐ鷹眞を見ていた。
「……同じ名字だって、偶然じゃない。鷹眞先輩、私はあなたの……妹なんです」
幾つかに区切られた言葉は決意の裏に隠された拒絶への恐怖か。最後の一句まで告げて見つめる隼瀬の瞳に浮かぶ鷹眞は目を見開き呆然としていて。
……告白の日に聖夜を選んだのは、それでも奇跡を信じたかったからかもしれないけれど。
「……すみません。迷惑、ですね」
眉を寄せ視線を落とした隼瀬の瞳は映し出す物を何時しか相手の靴へと換え、俯いて紡ぐ言葉を最後に沈黙が訪れる。まるで身を切られるような時間に隼瀬は身体を縮ませた。嫌な時間ほど長く感じるもの、実際はほんの一瞬だったとしても。
「っ!?」
何時の間にか目を閉じていた隼瀬の首にふわりと優しく温かな物が触れた。鷹眞の真っ白なマフラーはいつの間にか持ち主の首から隼瀬の首へと移動していた。
「隼瀬はいっつもそうだったなぁ」
思わず目を見開いた隼瀬がゆっくり顔を上げれば、いつものように穏やかな声と共に鷹眞の手が降りてくる。
「何かを呑みこんだ顔で、俺を見る……これでも気にしていたんだけど、まさか、ねぇ」
そのまま「ぽむ」と置かれた手はマフラーのように温かい。
「正直、今更家族なんてピンとこないけど……隼瀬が妹なら」
くしゃくしゃと髪を撫でる鷹眞の顔も、いつものままの優しい笑顔で。
「……兄さんッ!!」
涙で滲んだ視界であろうとこの奇跡は逃がさない。ようやく兄と呼べた人の胸へ飛び込む妹を兄は優しく抱き留める。いつの間にか雪がヒラヒラと舞い降り始めていた。
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